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妖御伽譚 上  作者: 鮎弓千景
桜色の絨毯が広がる日本庭園にて
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庭園の妖怪12

白虎様、部屋の隅でお亡くなりになっている。口から魂が抜き出かけて……いや、でているのが見える。


時刻は午後七時ー

ズズッ……と温かい緑茶を口に含みながら、辭は開け放たれた窓の向こうへと目をやる。


夜桜も綺麗。

ひらりと一枚の花弁が部屋へと入り込んできたと思ったら、耳鳴りが起こる。


甲高い耳鳴りが止んだかと思ったら、今度は周りの時間が止まっていた。

霊障が起こるにはまだ早すぎる。


お稲荷さんと二人で顔を見合わせる。

これは一体。


『白虎。』


声が部屋に響いた。

神々しい青い光が部屋全体を包み込み、それに反応するように突然雨が降ってきた。


不思議と冷たくない。

肌に雨が当たる感触もない。


雨と光が収まると同時に目を開けると、辭の視界に青き龍が映る。

が、次の瞬間そこには青い長い髪、髪と同じく青い瞳をした女性が立っていた。


女性は青い長い髪を揺らしながら、私に近づいてくる。

青き龍が守るかのように肩に乗っていた。


「初めまして、辭様。」


深々と私に頭を下げる女性。

女性は頭を上げると、こう言った。


「私は、東方の青龍と申します。

以後お見知りおきを。」

「あ。いえ、こちらこそ。初めまして、青龍様!」


突然のことで呆然としていた私はハッとして慌てて返すと、青龍様は口元を手で覆いクスクスと笑った。


思わず見惚れる。

見惚れていた私の視線に気づいたのか、青龍様は恥ずかしそうにニコリと微笑んだ。


「いきなり本来の姿で現れて、さぞかし驚かせてしまったことでしょう。

唐突で申し訳ないのですが、人の姿へと変化させていただきました。」

「いいえっ、全然気にしてないです!

青龍様にお会いできて嬉しいです!」


青龍様にお会いできるだなんて。

まるで夢のよう。

彼女は一体何の用で、こんな所に来たのだろうか。


「実は、そこにいる無礼者を引き取りに来ました。」


青龍様の視線を追うと、そこには気絶している白虎様がいた。

彼女は、スタスタと白虎様の元へ歩み寄るとその白銀の頭を叩く。


「白虎、起きなさい。」

「んー。」

「はぁ……どうやら起きる気配がないようなので、このまま霊界へ連れて帰ります。」

「あ、はい。」


小さな渦を起こした青龍様は、その渦に白虎様を乗せた。


「どれだけ探したと思ったのですか。全く。

会議の時間もろくに守れないなんて。」


と、ボヤいていた。

なるほど、会議だからお迎えに来たのか。


辭は(さげす)んだ目で、白虎を見た。

どうりでなかなかお帰りにならなかったはずだ。

四神のお一人なのに。


「辭様、無礼者がとんだ失礼をしました。」

「私なら大丈夫です。

青龍様、お時間は大丈夫ですか?」

「あら、いけません。そうでした。

では、辭様。

いずれまたお会いできるかと思います。

その時はゆっくりお話させていただきたく存じます。」

「私の方こそ、今度はゆっくりお話させてください。」


私が笑顔でそう言うと、青龍様は白虎様を乗せた小さな渦とともに消え去った。

サボりは良くないので、自業自得かと。


何とも早い四神二人目との出会い。

二人目は嵐のように現れては、嵐のように去っていった。


一方霊界では、白虎が他の三神にクドクドネチネチと説教を永遠とされていたのは当然である。

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