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妖御伽譚 上  作者: 鮎弓千景
西の都ー花の京都にてー
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お稲荷さん4

 「辭は私の力なんて必要ないのね……」


 宿の名前は時雨荘ーー。時雨の名前を使っている。最初その名前を聞いた時は、どこかのBARかと思ったが。


 時雨荘は二階建ての宿で、辭はいつも二階の一番左端の部屋を使わせてもらっている。

 最早、辭専用の部屋と言っても過言ではない。


 「いいのよ、どうせ私なんて……」


 ところで、先程から時雨が辭の部屋の隅で体育座りしていじけている。ブツブツ文句を言っては、辭をチラチラ見て来る。


 (パッと見、貞◯に見える。怖い)


 もう一時間もあのままだ。キツくないのだろうか。お尻がすごく痛そうだ。痔になったりしないことを祈る。


 時刻は午後六時ーー

 春先とはいえ、まだ日の入りが早い季節。今宵は寒くなるだろう。夜風はまだまだ冷たくて、本格的に暖かくなるのはもう少しかかりそうだ。


 「無視ですか? 辭、私のこと無視? なんの放置プレイなの?」


 時雨はまだ落ち込みモード。そろそろ言ってもいいだろう。辭は時雨さんの方を向く。


 そして、口を開いた。


 「放置プレイ?  一体時雨さんは何を言っているのですか?  私がいつ放置しました? そんなとこでウジウジジメジメされても迷惑なので、さっさと仕事してください。

女将でしょう。女将がそんなんでお客様が喜びますか? 逃げますよ、えぇ一目散に。

はっきり言います。ウザイので退散してください」

「はぅあっ……」


 より落ち込んでしまった。さっきより更にウジウジジメジメ感が増している。


 「辭ちゃん、もうそろそろ行く時間だろ?」


 救世主が現れた。時雨の旦那、(こう)だ。

 顔立ちが整っていて、サラサラの黒髪と同じ色の瞳。幸もまた名のある術師。普段瞳は黒いが、力を使う時だけ瞳が金色になるのだそう。辭の術の師匠さんでもある。

 本当に時雨さんと並ぶと美男美女。絵になる。

 そんな幸は辭の部屋の扉の所に立っていたよう。今の今まで全く気づかなかった。

 そして真っ直ぐに時雨さんの元へ行くと、軽々と抱き上げる。


 「あ"ー!!!!! 私を辭から引き離さ無いでーー!!!」


 (いや、とっとと出て行ってください……)


 そうやっていつも幸の腕の中で暴れる時雨だが、そのまま連行されていってご退散になる。


 幸は時雨を確保したら意地でも離さない。すごくお熱いお二人なので、辭は少し羨ましく感じる。


 辭はあんな風に誰かを好きになったりしたことがない。いつも皆と一線引いていた。

 辭もいつか時雨さん達のように誰かを愛し、愛される日が来るのだろうか。




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