庭園の妖怪6
スクッ……と立ち上がり、フワフワでモコモコな真っ白を抱き上げると極上の笑顔でこう言い放つ。
「私はそろそろ床につきたいのですが。
さて、お稲荷さん。
安眠妨害になるので、これ以上喚かないでください。
すごくウザイです。ものすごいウザすぎます。」
「ぅっ」
お稲荷さんは危機を感じた。
何故なら、辭の目が笑っていないから。
「お稲荷さんには二つの選択肢があります。
一つは、このまま喚き続けて私に滅せられるもしくは燃やされるか。
二つは、潔く黙って永眠するか。
どっちがいいですか?」
「どっちも何もないだろう!
どっちを選んでも永眠じゃないかよ!
変な選択肢を増やすな!
お前、目が笑ってないぞ!完全に逝ってるだろう!」
「お稲荷さん?」
「ぅ、悪いが永眠は嫌だからな!
だったら俺は実力行使に出るまでだ!」
そう言って、お稲荷さんはスルリと辭の手から逃げた。
「なんと!これがお稲荷さんの実力ですか?!
……って、違いますよ。
それは実力行使じゃないじゃないですか!」
「へへん!逃げるが勝ちだ!
してやったりっていうやつさ。
捕まえられるもんなら、捕まえてみろ!」
部屋から逃げ出したお稲荷さんは、廊下を疾走していく。
対して同時期に廊下へと出た辭は、追いかけることもせず、お稲荷さんを見ていた。
追いかけないのには理由がある。
それは。
ゴンッ……
「いってぇぇ!」
屋敷とその周囲には結界が貼ってあるため、必ずぶつかると分かっていたからだ。
疾走していれば、ダメージはかなりだ。
お稲荷さんはあまりの痛さに、ゴロゴロ床を転げ回っては足をバタバタとバタつかせていた。
「辭の野郎っ」
結界なんて貼るなよ、とボヤきながら私を恨めしそうに見てきた。
そんなお稲荷さんを見て、辭はニコリと笑う。
「自業自得ですよ?
疾走するお稲荷さんが悪いのです。
結界をこの屋敷に貼り巡らせていることくらい、分かっていたでしょう。
私は悪くありませんので、責めるのはキチガイです。
では、お休みなさい。」
バタン、と襖の閉まる音がしてお稲荷さんは廊下に独りポツンと残されることとなった。
結局、翌朝までお稲荷さんが、辭の部屋の隣の部屋で眠ることになったのは言うまでもない。
翌朝、お稲荷さんの頭には小さなタンコブが出来ていた。
メソメソと部屋の隅でいじけている。
辭はそんなお稲荷さんを視界の隅に入れながら、自分の布団の周りに落ちている硝子のような光る欠片を拾い上げた。
やはり、結界は壊されてしまったか。
もし寝ている時に鎌鼬が何か攻撃を仕掛けてきたら、と防御の為に貼っていたのだが。
見るも無惨に粉々。
よく無事に朝を迎えられたものだ、全く。




