表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妖御伽譚 上  作者: 鮎弓千景
西の都ー花の京都にてー
7/133

お稲荷さん3

 その風はあまりにも強くて、辭は両腕で視界を庇う。

 気がつけば風が止んでいて、目の前にはあの男が気絶していた。


 目が醒める前に路地から抜け出した。起きたら面倒事になりかねない。


 ほんの少しだけ近道しようと思い、屋根の上を移動する。風が茶色のロングを優しく撫でる。軽やかに跳ぶのは好き。何も気にしなくて済むから。


 (それにしても、先程の風……)


 ほんの微かだが、妖の気配がした。力量もかなりのものだ。あれが今回の退治すべき妖なのだろうか。悪意は微塵も感じなかった。


 荷物の重さなど見ている者には感じさせない程、身軽に目的地の屋根から降りる。


 あの後、トラブルに巻き込まれることもなく、辭は無事に宿へ辿り着いた。

 辺りは少しオレンジ色に染まっている。本当ならもう少し早く着く予定だったのに。とんだロスタイムを喰らってしまった。


 (約束の時間より、随分とかかってしまった。怒っているだろうか。それとも心配して倒れてはいないだろうか)


 辭はその人物をよく知っているため、頭の中をそんな考えばかりが駆け巡る。


 今自分がどんな顔をしているのか、辭自身分かる。きっと、顔の表情筋がひくついているに違いない。


 小さく溜息をついて、宿の扉に手をかけて開けた。と、途端に辭に飛び付いてくる黒い影が。


 「良かったー! 辭 、事故か何かに巻き込まれたのかと思ったよ!!」

 「あ……の、時雨……さ……」

 「大丈夫だった?! 辭はすごくすごーく美人さんで背が小さくて可愛いから私てっきり変な輩にあんなこととかこんなととかに巻き込まれたんじゃないかって心配で心配で仕方なかったんだから!  もう本当無事で良かった! で、変な輩に絡まれたの?!  どうなの?! ほら言いなさい!!  私がボコボコにしてあげるからどこのどいつか吐いちゃいなさい!!」

 「いや、もう……大丈夫です……間に合って、ます……」


 マシンガントークな上に頭が取れてしまうのではないかと思う程、肩を揺さぶられる。


 辭に飛び付いてきたのは、この宿の宿主の楿 時雨。

 時雨は辭の親戚にあたる方で、とても優しい人だ。美人さんで術の才能もピカイチ。辭なんてとてもじゃないけど、足元にも及ばない。

 だが、一つだけ残念な所がある。


 それはーー


「え?! 絡まれたの!? 案内なさい!! 私がボコボコのギタギタにしてあげるから!!」


 マシンガントークなのはいいが、馬耳東風なのだ。全くもって人の話を聞かない。


 なんとか時雨さんを止めながら、改めて宿の中を見渡す。


 ちっとも変わっていない。懐かしくて落ち着く。


 気づいただろうが、京都だけではなく、楿家が運営する宿は全国各地にある。

 辭はよく京都の任を任されるため、他の所は滅多に行かない。


 だから、辭にとって京都は行きつけの馴染み深い所なのだ。八ツ橋は美味しいし、抹茶も美味。


 (いけない。考えてるだけで楽しみが増えていく)


 任が終わったら行きつけのお茶屋さんでも行こう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ