夜道の訪問者21
大気が震えている。
妖となっている侭さんは、殺気を放っていた。
それは紛れもなく巫さんに向いていて。
あまりにも感じたことがない強い殺気。
気を緩めれば、私まで倒れてしまいそうだ。
悪路神の火となった侭さんが、斬りかかってきた。
「巫さん!危ないです!」
キィンッと金属音がして、巫さんは侭さんの刀を受け止める。
そして、真横へと受け流した。
受け流してもなお、斬りかかってくる侭さんとそれを受け流す巫さんの攻防戦が続く。
すごい……
こんな攻防戦見たことない。
お稲荷さんもただ二人の攻防戦の行方を見守るばかり。
長い攻防戦が続く。
すると、辭の方へ巫が振り返った。
「辭っ、さん!
行ってくださいっ!」
「ですが!巫さんが!」
「私なら大丈夫です!
侭の殺気が、私に向いているうちに早く行ってください!」
「巫さん。」
キィンッとまた金属音が響く。
愛する二人が、お互いに刃を構えて命を懸けて対立しているのに。
足が離れてくれない。
「行けっ!辭!」
お稲荷さんが叫んだと思ったら、私は次の瞬間には遥か後方へ何かの力に突き飛ばされていた。
遠くなる巫さんと侭さん。
そして、お稲荷さん。
「あっ……!」
伸ばした手は空気を掴んで。
遠くなる景色、自分が陣を使う適切な場所に体が飛んでいっている中、お稲荷さんの声が聞こえた。
「大丈夫。
二人は俺が見てるから、辭は辭のやるべきことをしろ。いいな?」
やがて、開けた場所に着くと、体はピタリと止まった。
ゆっくりと地面に降ろされる。
私は辺りを見渡した。広さも、大きさも充分。
ここなら、陣を使っても他の者達への影響も少なくて済むだろう。
私は、二人が戦っている橋の方向へ視線を向ける。
二人が気がかりです。
お稲荷さんがいるなら、大丈夫かと思うが。
辭は仕舞い込んだ術式を取り出した。
それを地面へと置いていく。
円陣の形を取り、中央に楿の文字を置いた。
円陣の北は玄武、南は朱雀、西は白虎、東は青龍の文字を書いて完成だ。
楿家が使う術式は全て四神の力を借りることで成立する。
四神妖霊術と呼ばれるもの。
術式の準備が終わった辭の耳に、そう遠くない位置からドーンという音が聞こえてきた。
こちらへ向かってきている。
自然と気が引き締まる。




