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妖御伽譚 上  作者: 鮎弓千景
西の都ー花の京都にてー3
54/133

夜道の訪問者18

翌日ー

京都六日目ー


今日は侭さんを払う日。

朝起きた辭は、まだ隣でスヤスヤと眠っているお稲荷さんを起こさないように布団を出た。


机の上に置いてある小さな巾着袋から、白い勾玉を取り出す。


巫さんが依代(よりしろ)として身を置いているものだ。


そっと、勾玉の輪郭を指で撫でた。

巫さんの力を感じる。


どうやら起きたみたいです。


よく見ると、勾玉は綺麗な虹色の輝きを放っていた。

これが、巫さんの力。


虹色に輝くそれは、凄く綺麗で穢れがない。

力がかなり蓄えられたようだ。


辭の脳に直接声が響く。


『おはようございます、辭さん。』

「おはようございます、巫さん。

いよいよ、今夜ですね。」

『はい。眠っている間、気持ちも整理いたしました。

本当は、侭を払うことに対して抵抗がございました。』

「でもそれは、お稲荷さんが巫さんの気持ちを確かめるものであって。

深い意味はなかったのではないのですか?」

『いいえ、お稲荷さんは、白狐さんは見抜いていらしたのですよ。

私の迷いを。

ですから、あのような言葉を口にしたのでしょう。

確かに迷いがございましたが……

今はもう、迷いも抵抗もございません。』


巫さんのその言葉を聞いて、私は思った。

この人はすごく真っ直ぐで強い方なんだ、と。


たった二日間で、迷いも抵抗も捨てることは難しいのに。


「そうですか、それなら良かったです。

私も力は及びませんが、精一杯やらせていただきます。」

『ありがとうございます、辭さん。』


そこまで彼女と話して、お稲荷さんがモゾモゾと起き出した。


彼女との会話はそこで終わった。

いつも通りにお稲荷さんとご飯を食べて、私は術の準備に取りかかる。


白紙を取り出し、筆で文字を書く。

これは妖術式と言って、術師が術を発動する時の要、柱となるもの。


術師はこれに自らの力を送り込み、呪を唱えることで術を使うのだ。


最も、これは大きな力を持つ妖や悪霊、邪気を纏いすぎて元に戻れなくなってしまった者達へ使用する。


侭さんは、元は神様だった。

だけど邪気を纏いすぎたがために、元に戻れなくなってしまった。


今回の術の最適者だ。


サラサラと、紙に術式を書いていく。

これらを重ね合わせて、陣を作る。


円陣のパーツを一つ一つ書いていった。

陣の真ん中には術師の苗字が必要となるため、楿の文字を力強く書いた。


これで術式の準備は完了。


書き終えた紙を新聞紙に敷いて乾かす。

濡れたままだと、上手く術が発動しない。


それは、まだ私が未熟だからだと言えば、そうであるのだが、熟練者では濡れた紙からでも術が発動できる。


かなり高度の技術らしく、私の師匠である幸さんですら会得できていない。


それほどまでに高度だということだろう。

ちなみに私の父上は、これが使える。


さすが父上。

父上でも会得するのに十年はかかったとのことらしい。


血の滲むような地道な努力を重ねなければ、大半の術は会得できないし、発動できない。


術師とは本当に力がある者には最適な仕事でもあり、修行でもあるのだ。


よし、これで後は乾くの待つだけ。


チラリと机の上へと視線がいく。

白い勾玉は何もされることなく、そこに置かれている。


お稲荷さんは、お腹いっぱいになったのかシッポをゆらゆらと揺らしながら目を閉じていた。



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