表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妖御伽譚 上  作者: 鮎弓千景
西の都ー花の京都にてー3
52/133

夜道の訪問者16

 その後、巫の希望もあり、辭が持っているお守りの勾玉に巫の霊は身を置くこととなった。


 もうすぐ、夜が明ける。

 辭は日が昇り始め明るくなっていく空を見上げ、霊園を後にした。


 お稲荷さんは肩に乗ったまま、口を開かない。辭も、口を開く気にはなれなかった。


 胸がどうしようもなく苦しくて、どうにかなりそうだ。


 締め付けられるような、そんな苦しさ。


 時雨荘へと着いた頃には、疎らだが人が通りを通っていた。屋根から表へと降りる。


 玄関で時雨が笑顔で迎えてくれた。


 「お帰りなさい、辭」

 「只今帰りました。時雨さん」


 辭も咄嗟に笑顔で返したが、時雨は辭の様子がおかしいことに気づいている。


 人より笑顔が上手に出来ない。こういう時の誤魔化しの笑顔も。


 どうやら顔に出ているらしい。時雨は、手招きをするとソファーへと案内する。


 時雨が腰掛けたので、辭も倣うように隣へ腰掛けた。


 「辭」

 「はい」

 「何かあったのね?」

 「はい」

 「私で良かったら、話を聞くわ」

 「あの、私。時雨さんにそっくりな霊に会ったんです」


 やっと口に出来たのは、そこの部分だけ。そう。巫は、今隣にいる時雨に似ていた。


 続けて辭が口を開こうとすると、時雨は人差し指を唇に当てた。


 これは時雨がよくする仕草で、この仕草が出た時は、これ以上話さなくていい、という意味だ。


 ポンと頭に手を置かれる。優しく撫でられる。温かい。


 「今は無理して話さなくていいわ。聞いてほしくなったら、いつでも言ってきなさい。私たちは、いつだって辭の味方だからね。そのことを忘れずに」


 辭が小さく返事をすると、時雨はもう一度頭を撫でて仕事へと戻っていった。


 (ごめんなさい、時雨さん。今の私には、この苦しさを何て言葉にしたらいいのか、分からない)


 部屋に戻ると、装束の内ポケットから巫さんを入れた勾玉を取り出した。


 そっと、勾玉を指でなぞってみる。巫の力は感じない。


 今は眠っているようだ。来るべき結末に備えて。力を温存しておくのだろう。


 お稲荷さんは、愛用の櫛で毛並みを整えている。辭はラフな格好であるワンピースへと着替えると、畳の上に寝転ぶ。


 そして、目を閉じた。少しでも気持ちを整理したい。


 「辭」


 お稲荷さんが辭を呼んだ。ゆっくりと目を開けて、お稲荷さんを見る。クンカクンカと匂いを嗅いでいる白。


 「明後日は夕方からずっと雨だ。西の方から微かに湿った匂いがしてくる」


 明後日。巫と、侭の運命が決まる。


 「分かりました。それまでに準備をしておきます」


 辭はそう呟いて、天井へと視線を移す。目を閉じた……


 今はただ、この苦しさから逃げたくて。いつもよりも浅い眠りについた。


 そんな辭の隣で、お稲荷さんは寄り添うように丸くなって一緒に眠っていたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ