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妖御伽譚 上  作者: 鮎弓千景
西の都ー花の京都にてー3
51/133

夜道の訪問者15

 静寂だけがこの場を占めた。夜風は優しく吹いている。


 「私のせい、なのです。侭があのような妖へとなってしまったのは」


  (巫さんは悔んでいる。侭さんではなく、夫である宰さんを選んでしまったことを。

 侭さんの苦しみを、辛さを分かってあげられなかったことが、気づいてあげられなかったことが。

今も未練として残って巫さんを、そして侭さんを苦しめ続けている)


 顔を覆い隠している彼女の気持ちが力を通して伝わってくる。


 苦しい、痛い程の想い。交差する苦しさと悲しみ。


 「辭さん」

 「はい」

 「お願いがございます。どうか、どうか侭を、助けてあげてほしいのです……」


 辭達の前で、深々と土下座をする巫。


 「本当は、分かってんだろう?」


 肩から今の今まで黙っていたお稲荷さんが巫に向かって口を開いた。


 巫は頭を下げたまま、お稲荷さんの言葉に耳を傾けている。


 「あいつはもう元には戻れない」


 それは辭も分かっていた。そこまで堕ちてしまったら、もう簡単には元に戻れない。


 巫もそれを分かっていたのか、ビクリと肩を震わせた。


 「分かってなかったら、んなこと辭に頼まないよな。あいつを、払ってほしいんだろう?」


 バッと頭を下げていた巫が、勢いよく頭を上げる。巫の顔は苦痛に歪んでいた。綺麗なまでの顔に影が落ちた。


 「はい、その通りです。侭を、払ってほしいのです」

 「お前は、それでいいのか。最愛の人を殺すことになるんだぞ?」

 「それは、分かっております! だから、こうしてお願いしているのです! 私だって、生半可な覚悟で申しているのではありません! 出来ることなら、私もお力添えをさせていただきたいのです……!」


 必死に、侭のために、たくさんの人々のために、そして何より自分自身のために。


 (巫さんだって、本当はこんなことを望んでいない。払ってほしいなんて、思っていない。出来るなら払わないで済む方法を取りたかったに違いない)


 でも、もう自分にはそれが出来ない。だから他の人に払ってもらうしか、ない。


 残酷な決断、悲しい結末。


 「分かった。引き受けよう。辭も、それで大丈夫か?」

 「はい」

 「ありがとうございます……!」

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