夜道の訪問者8
京都四日目ーー
朝早く目が覚めた辭は部屋を出る。そして運悪くも時雨と幸に見つかった。
二人とも心配してくれた。
「良かった! 辭が無事でー!! もう、本当に心臓が潰れちゃうんじゃないかってくらいに心配したんだから!」
という時雨のマシンガントークから始まり、
「あまり無理はしないでね、辭ちゃん」
という幸からの温かい言葉をもらいながら朝ご飯を食べた。
(一体誰が私をここまで運んだのだろう?)
それは時雨達が教えてくれた。
「あぁ、それならお稲荷さんだよ。辭ちゃんが倒れた後、変化してここまで運んできてくれたんだよ。ドアを蹴飛ばして入ってきたし、何しろ人間の男だったから最初誰か分からなかったけど、彼の白い耳とシッポでお稲荷さんだって分かったんだ。それで彼の慌てようが凄いから、腕の中を見たら辭ちゃんが気を失ってたってわけだよ」
「そうだったんですか」
「本当に凄かったんだから! 余程急いで来たのか息は絶え絶えだし、ずぶ濡れだし。辭が! 辭が! って。もう凄い勢いで抱えて駆け込んできたんだから!」
辭は隣に何喰わぬ顔をして座っている子狐のお稲荷さんを見た。
「何だよ」
「いえ」
「それでね、目が覚めるまでは自分が辭に付き添うって聞かなくて騒いでたのよ!」
「ち、違う! 俺はただ、あの時……辭が死んだら白虎様に殺されると思って、それで必死で。別に辭が心配で仕方なかったわけではないからな!」
「おやおや、意地を張って」
ニヤニヤしている二人に対し、お稲荷さんは慌てたように反論している。
「お稲荷さん」
「あ?」
「ありがとうございます」
「 ?!」
辭は精一杯の感謝を込めて、お稲荷さんに笑顔を向けた。
すると、何故かお稲荷さんの顔が赤い。
「どうしたのですか?」
「いや、別に」
「辭の笑顔が見れて嬉しかったんでしょう?」
そうやってお稲荷さんを弄る時雨の言葉に、ますます顔が赤くなる。
「全然違う!! 俺は辭の笑顔が見れて、う、嬉しいとか決して思ってなんかないんだからな!」
でも、シッポは振ってる。
やがて耐えきれなくなったお稲荷さんは、いち早くご飯を食べ終わると、先に部屋へと戻っていってしまった。
「素直じゃないんだから」
時雨は笑いながら言った。
辭はごちそうさまと言うと、食器を片付けて部屋へと急いだ。




