夜道の訪問者7
辭はそこまで見て、意識が遠退いた。
「辭!」
誰かが呼んでいる。辭はゆっくりと目を開けた。視界に映る白。
「お、稲荷、さん?」
「辭! 気がついたか! 良かった!」
お稲荷さんが心配そうに辭を見ていた。ずっと付き添ってくれていたようだ。
ハタハタとシッポを振りながら、辭のお腹の上へと登ってきた。
「辭、倒れた時のこと覚えてるか?」
辭は倒れた時のことを思い出した。確か懍に奇妙な噂を聞いて。
それで真相を確かめにお稲荷さんと五条大橋に行って。
そこで黒い霧と赤い光を見て、その後何故か急に体が重くなって。気がついたら地面に倒れていた。
「はい、覚えてます……お稲荷さん、私はどうして倒れたのでしょうか」
「辭がそいつの強力までの邪気を諸に喰らったからだ。だから、体が邪気に耐えられずぶっ倒れたってわけ」
「なるほどです。ところでお稲荷さん」
「何だ?」
「人のお腹の上でくつろぐのはやめてください。苦しいです。あと、すごく重いです」
胃が圧迫される。吐きそう。
「何だよ、失礼だな」
そんなことを言いながらも渋々と退いてくれる。何にせよ、病にかからなかっただけ不幸中の幸い。
時計を見ると、日付が変わっていた。
京都三日目が終わり、四日目に突入している。そんなことを思いながら、辭は考えた。今回の任は長くなりそうだと。
「まだ夜明けじゃないから、もう少し寝てろよ」
「お稲荷さんは寝ないのですか?」
「俺も寝るから安心しろ」
「分かりました……」
辭はそう言うと、再び眠りに落ちていった。今度は何もなかった。




