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妖御伽譚 上  作者: 鮎弓千景
西の都ー花の京都にてー3
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夜道の訪問者2

 一時期姿を消していた? どういうことなのか。


 「ある一定の時期にしか現れないのですか?」

 「いや、時期じゃねぇな。どちらかというと天気、雨の夜道に現れるんだ」

 「雨……」

 「俺が知ってるのはこれくらいだ。実際に俺達はその訪問者に会ったことがないからな。後は、自分で調べるか……そうだな」


 お稲荷さんはクンカクンカと大気の匂いを嗅いでこう言った。


 「今夜行ってみるとかが良さそうだ」

 「え? 今夜、ですか?」

 「あぁ、湿った匂いがする。今夜から朝にかけては雨だな。別に怖いなら、今夜無理して会いに行かなくてもいいんだぜ」

 「怖くなんてないです。寧ろ、興味が沸いてきました。お稲荷さん、私が怖がってるとでも言うんですか? そんな憶測で勝手に決めつけないでください」


 どうやらお稲荷さんは辭のプライドにスイッチを入れてしまったようだ。

 スイッチが入ってしまった辭の体からメラメラと炎が沸き上がっていた。


***


 「五条大橋に到着です」


 時刻は午後十時ーー

 天気はお稲荷さんの言った通り、雨。二人は今噂の出処となっている問題の五条大橋にいる。


 この時刻の五条大橋は、人気が全くない。本来ならこの時刻でも人通りは少なからずあるはずなのに。

 噂が、原因なのだろうか。閑散としている。


 「あぁ、雨は嫌だなー。ジメジメするし、この湿気の匂いが好きじゃないんだ」

 「そうですか? 私は雨は嫌いじゃないですよ。」

 「俺も嫌いとは言ってないぞー。ただ、こういう天気の日は、毛並みにツヤがなくなるから嫌なだけだ」


 お稲荷さんはそんなことを言いながら、毛並みが気になるのか愛用の櫛で整えている。


 「……!」


 (感じる……妖の気配)


 気配を追い視線を橋へやると、雨の中だというのに橋の上に黒い霧が立ち込めている。

 辭の肩の上でお稲荷さんは相手に対して警戒態勢に入っていて、ヴゥゥゥゥ……と威嚇していた。

 お稲荷さんが、こんなに威嚇するなんて初めて見た。


 意識を一瞬外していたが、再び目の前の怪異へと意識を集中させた。黒い霧は黙々とただ立ち込めている。

 本当に、ただ何かをするわけでもなく。黒い霧のままとして。

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