夜道の訪問者
京都三日目ーー
辭はその日の昼下がりに電話をかけてきた友人、懍から奇妙な噂を聞くこととなった。
「夜道の訪問者、ですか?」
『そう。最近京都でよく出没するらしいの。何でもね、五条大橋で夜な夜な人魂が橋の上にフッと現れては橋を渡り、フッと消えてはまた橋の上を渡ってを繰り返すんだって。その様子に、まるで昔の人が提灯を持って橋を渡っていたように見えたから、地元の人達の間では、夜道の訪問者って呼ばれているらしいわ』
「それはすごく興味深い話ですね」
『でしょ?! あたしも本当はそっちに行って調べたいんだけど、仕事が絶えなくて』
本当、底をつかないぐらいあるんだからー
電話口でつまらなさそうに話す彼女に、辭は心の中で突っ込みを入れた。
それは懍が仕事をサボっているから溜まったのでは?
「それで? 私に代わりに調べて解決してほしいと言うのですか?」
『うん、そうなの。ダメかな?』
「いいですよ」
『本当?! やったー! ありがとう、辭! 大好き!』
「やめてください。私は生憎そのような趣味はありません」
『ごめん! ごめんなさい! って、あたしはただの友愛の意味で言ったのよ!』
「そうでしたか。それは失礼なことをしましたね。あ、私今から用事があるんです」
『あたしもよー。仕事関連だけどね。もー、嫌になるわ。くれぐれも気をつけてね。その訪問者、傍を通った人に病をかけるらしいから』
「分かりました、気をつけます」
『よろしくねー!』
そう言って懍からの通話はいつもの様に、一方的に彼女からかかってきて、一方的に彼女から切ることで終わった。
はぁ……と溜息をつくと、すっかり温くなってしまったお茶を啜りながら、辭は横にいるお稲荷さんを見た。
お稲荷さんは欠伸をしながら、日向ぼっこをしている。
春の陽射しはポカポカして暖かいから、日向ぼっこにはもってこいなのだ。
「夜道の訪問者ねぇ」
ポツリと呟くお稲荷さん。辭はその白い毛並みを撫でていた手を止めた。
「お稲荷さん、知ってるんですか?」
「ん? まぁな。そいつは俺達の間でもそれなりに名が通った奴だ」
「妖なのですか? それとも、悪霊なのですか?」
「いや、妖だ。その妖は傍を通った奴を恐ろしい病にするというのは、ずっと昔からあったことだったし一時期姿を消していたから、俺達も特に何もすることもなく放っておいたんだが」




