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妖御伽譚 上  作者: 鮎弓千景
西の都ー花の京都にてー2
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小鬼達の悪戯20

 (何だか体が揺れている……)


 小鬼達が去ってから六時間も眠っていた辭とお稲荷さんは、お昼を知らせる十二時の鐘の音で目を醒ました。


 「腹減った。おい、辭。昼だぞ、起きろ」


 お稲荷さんは白くて小さな体で、ゆさゆさと辭の体を揺らして起こす。シッポもユラユラ揺れている。


 「んー……お稲荷さん? おはようございます」

 「もうおはようの時間じゃないけどな。辭、おはよう」


 むくりと布団から起き上がる辭。膝の上にお稲荷さんが乗ってきた。

 辭は、その白くて柔らかい毛並みを撫でるのがここ二日の間ですっかり日課になりつつある。


 「顔洗ってきます」

 「いってらっしゃーい」


 顔を洗って部屋に戻ってくると、お稲荷さんが布団を片付けてくれていることがある。

 一回早く戻ってきたら、お稲荷さんがちいさな体で布団を押し上げている所だったことがあったので、ゆっくり戻ってくるようにする。


 「お布団、いつもありがとうございます」

 「いいってことよ。昼飯食べに行こうぜ」

 「はい」


 下へと続く階段を降りていると、ご飯のいい匂いが漂ってきた。思わず階段の途中で降りるのをやめた。今朝の時雨達の様子が気になってしまったからだ。


 ちゃんと直接顔を合わせて、笑顔でおはようございますって言えるだろうか。

 いつも通りに接することが出来るだろうか。正直、今の辭にそんな芸当はできないと思う。そんな辭を、お稲荷さんは心配そうに見つめていた。


 「行きましょうか、お稲荷さん。時雨さんのご飯を食べに」


 そう言って再び階段を降り始める辭の背中。辭は、これからたくさんの妖や霊や人との出会いと別れを体験するだろう。

 もしも今日みたいなことがあったら、俺が支えていこう、そして苦楽を共にしよう。お稲荷さんは密かにそう誓った。


 一階の受付所に行くと、時雨と幸が笑顔で接待をしていた。今朝の涙なんてなかったかのように。

 そして、辭に気づいていつものように笑顔で挨拶をしてくれた。


 「時雨さん、幸さん。遅くなりました」

 「あ、辭、良かったー! よく眠れたようね。泣いていたでしょ。心配してたのよ? あらあら目が少し腫れてるわ。ちゃんと冷やした? 冷やさなくちゃダメよ! 美人さんが台無し。でも、そんな辭もいいわー! あら、お稲荷さん今日も可愛いわね! あとでモフモフさせてー!」


 (あ、いつもの時雨さんだ)


 マシンガントークも健在で安心した。


 「時雨、もうそれぐらいにして。そろそろお昼にしようか」

 「えぇ、辭、お稲荷さん。今日のお昼はうどんよ」

 「うどんだー!」

 「時雨さんのおうどん美味なのです。」


 (幸さんもいつも通りだ。私が余計な心配をする必要はなかっただろうか。泣いてもいつも通りでいるお二人は、本当に強い……)


 「時雨さん、幸さん」

 「どうしたの? 辭」

 「辭ちゃん、どうしたんだい?」

 「あの、私、今はまだまだ弱くて、色々な人に迷惑をかけていることも多いです。でも、その、私、私いつか時雨さんや幸さんみたいに、強くなりたいです!」


 二人の目が見開かれたのも束の間。頭に優しい手の温もりが。


 「よく言ったね、辭ちゃん」

 「大丈夫よ、辭ならなれるわ」

 「はい」

 「じゃあ、腕によりをかけて美味しいうどんを作るわね!」

 「はい!」


 心から笑えた。時雨達に笑顔で接することが出来た。これからたくさん笑えるように。

 お稲荷さんはそんな辭の後ろ姿を見つめると、トテトテと小走りで追いかけていく。


 春の魔法か……それとも、小鬼達の悪戯だろうか。

 その日のおうどんには、どこから舞い込んだのか桜の花弁が入っていた。

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