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妖御伽譚 上  作者: 鮎弓千景
西の都ー花の京都にてー2
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小鬼達の悪戯18

 やがて、小鬼達の出し物や芸などが始まり宴会はゆっくりと終わりに近づいていた。

 辭達は気づいていなかった。後ろの襖が、僅かに開いていたことに。

 そこに人影があることに。


 時刻はもうすぐ午前五時。

 開始から既に四時間が経っていた。あと一時間したら日が昇る。


 楽しい時間は本当にあっという間に過ぎてしまう。今回は最後だからと、朝まで宴会を開くと言っていた。

 小鬼達を見つめる辭。後、五十分。


 ああ、時間が止まってくれたらいいのに。

 そんな儚い願いは叶うこともなく、秒針は動き続ける。

 後、四十五分。

 チッ……

 後、四十分。

 チッ……

 後、三十五分。

 チッ……

 後、三十分。


 刻一刻と、タイムリミットは近づいてくる。後、二十五分。

 タイムリミットまで半分を切ってしまった。本当に、このままでいいのだろうか。

 時雨達に何も言わずに姿を消していいのか。


 折角見届けると心に決めたのに、タイムリミットが迫る度に、その決心がグラグラと揺れる。

 チッ……

 後、二十分。

 チッ……

 後、十五分。

 チッ……

 後、十分。


 その時、突然襖が開いた。

 びっくりして振り返ると、そこには。


 「時雨さん、幸さん。どうして」


 時雨と幸が立っていた。

 一瞬、夢かとも思ったが二人とも確かにそこに立っている。

 小鬼達は罰が悪そうに辭の後ろに隠れた。


 「小鬼さん達。どうして、最後なら最後って教えてくれなかったの!」

 「何も言わずに立ち去ろうなんて、寂しいじゃないか」


 言葉が出なかった。

 辭は後ろに隠れている小鬼達を、時雨達の前へと優しく押し出す。

 本人達を前にして、小鬼達も緊張しているようだ。


 「わ、我々は、お二人を悲しませたくなくて。いつまでもその笑顔でいてほしくて、お伝えしなかったのです」

 「そんなの、気にしなくていいのよ?」

 「時雨の言う通り。君たちはもう立派な僕達の家族だ」


 本当に最後だと言うのに、まるで悲しさなんて微塵も感じさせないその笑顔に、辭は何故か胸が痛んだ。


 「ありがとうございます……! 我々は、お二人に出会えることが出来て、春だけですが楽しく過ごさせていただいて、本当に幸せでした!」


 チッ……

 時計を見ると、後三十秒。


 「私達もよ。すごく楽しかったわ」


 チッ……

 後、二十秒。


 「これからも、その笑顔でいてください」


 ポロポロと小鬼達の目から涙が流れた。

 後、十秒。


 「さようなら、時雨殿、幸殿」


 チッ……

 後、五秒、四、三、二、一。


 「どうかお元気で」


 振り子時計が午前六時を指す。

 その言葉を最後に小鬼達は泣き笑いを浮かべて、静かにスーッと光の球体になって消えていった。

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