小鬼達の悪戯16
(三年……)
辭達人間にとっては長く感じるものでも、妖にとってはあっという間でしかない。
それこそ、綺麗に咲いていた花が二、三日経てば萎れてしまうような。
「そんな」
「だから、今日で最後なのです。今日で我々が力を無くして三年になりますから。何故最後なのかは分かっていただけたでしょうか」
「はい……小鬼さん達」
「何でしょう?」
「……時雨さん達は、このことを知っているんですか?」
「いえ。伝えておりません」
「どうして、ですか?」
沈黙が訪れる。返事は返ってこない。
時雨さんの小鬼さん達の話をする時の顔が浮かぶ。
「時雨さん達は、小鬼さん達のことを本当に大切に思っているんですよ……!」
ポタポタと涙が溢れる。拭っても拭っても出てくる涙。切なすぎて、寂しくて、でも暖かくて。
「辭」
「伝えて、あげてください。時雨さん達に、このことを……!」
(お願い。お願いだから)
「辭様。申し訳ございません。その願いだけは、聞くことは出来ません」
「そう、ですか」
お稲荷さんは辭の背後で、辛そうに瞳を閉じていた。
「……では、午前一時にお会いいたしましょう、辭様」
顔を俯かせている私を気にしながら、小鬼達は姿を消した。部屋には、辭とお稲荷さんだけ。
(私なら、すごく辛い)
それは時雨達も同じだ。もし、辭が時雨さんだったら、どうするだろうか。
辛くても、きっと笑顔で見送ると思う。ここまで考えて、辭は気がついた。
小鬼達はいつまでも笑顔でいてほしいから、時雨達に。
だから、伝えないと言っていたのだろう。辭は小鬼達の優しい心遣いを無駄にしてしまう所だった。
「お稲荷さん」
「大丈夫か? 辭」
「大丈夫です」
涙を拭って立ち上がる。心に決めた。小鬼達の最後を、時雨達の代わりに見届けると。




