小鬼達の悪戯15
「言いにくい、ことなのですか?」
「いえ、そういうわけではないのです」
「辭様。聞いてくださいますか?我々の話を……」
「はい」
「我々は8年間、この時期にこの部屋で宴会を開いていました」
誰も知らない、我々だけの宴会。
8年前のそんなある日、この宿に人間の夫婦が住み着いた。
その人間の夫婦は、悪しきものを宿に寄り付かせないために結界を張り巡らしていた。
二人は妖霊術を駆使する術師だった。夫婦の名は楿 時雨と楿 幸。
「宴会も見つかり、命の危機を感じた我々は最初こそは時雨殿と幸殿を悪戯をして追い出そうと物音を立てたりしてました」
しかし、二人は我々を滅することもなく、出ていくどころか、春だけにしか現れない我々のために部屋を開けておいてくれた。
そこから我々と二人の奇妙な交わりが始まった。
初めは二人の物を隠しては、探している本人達の前に持っていくというものだった。
「本当に楽しかったのです。お二人の驚く顔がすごく嬉しくて」
やがてそれがフリになっていたとしても、変わらず驚いてくれる二人が、我々は好きだった。
不覚にも我々は、ここに安らぎを感じてしまった。離れ難いとさえ思った。
春が過ぎれば去り、また春になればここに戻ってくる。
二人はいつしか、我々の安寧の居場所となっていた。
「時というのは残酷です。我々は昔は妖としてかなりの力がございました。しかし、長き時が経った今はもう当初の様な力はない。気づいた時には、我々には……もう何も残っていなかったのです」
それでも、宴会だけは、この春の宴会だけは続けようということで、今日まで開いていた。
「ですが、もう限界のようです」
「力が無いからですか?」
「それもございますが、我々は今日までしか存在できないのです」
「どういう意味ですか?」
「辭、妖っていうのは力があって初めて永遠に存在できるんだ。中には力が無くとも存在している奴もいるが、小鬼達のような妖ものには寿命がある。力があれば寿命なんて関係ない。けれど、力を失ってしまった妖は、まぁ要は小鬼達みたいな奴らは力を失ってから三年しか存在できないんだ」




