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妖御伽譚 上  作者: 鮎弓千景
西の都ー花の京都にてー2
29/133

小鬼達の悪戯13

 はっ……お稲荷さんとのんびりしている場合ではない。

 辭が立ち上がると、油断していたお稲荷さんが膝からコロンと転がり落ちた。


 「のんびりしている場合ではなかったです」

 「急にどうしたんだよ?」

 「探し物を探しているのです」

 「そういや、さっきもゴソゴソしてたな。探し物?」

 「はい。赤い色の花柄の手鏡なのですが……いつもこの引き出しに直していたのに、見当たらないのです」

 「俺も手伝うぞ」

 「ありがとうございます」


 二人で再び部屋の中を探すことにした。

 机の中はもちろん、装束の中、鞄の中、ポーチの中、財布の中、押入れの中まで。

 どんな探しても手鏡の手の字も出てこない。辭がここまでその手鏡に執着するのは、母からもらった大切なものだからだ。


 「そっちはあったか?」

 「……ないのです」

 「俺の方もだ」


 部屋を探し回っても手がかりすら出てこなかった。

 いつも表情が崩れることのない辭でも、こればかりはさすがに応えた。

 悲しそうにしている。


 「そうだ、それって辭の匂いがついてるかもしれねぇ」

 「だから、何だっていうんですか」

 「俺の鼻で匂いを辿って探すんだよ。ほら、狐はイヌ科だからな。嗅覚には自信があるんだ」

 「お稲荷さん……」


 ガシリと両脇を抱えられる。焦げ茶色の瞳は茶色の髪に隠れて見えない。


 「その手がありました」


 辭の瞳に希望の光が見えた。

 早速、お稲荷さんの嗅覚を頼りに捜索開始。クンカクンカと辺りの匂いを嗅ぐ姿は、まさにイヌ。


 「こっちから辭の匂いがする」


 そう言って襖を開けると飛び出していった。辭は慌てて追いかける。

 お稲荷さんが言うには、辭の匂いは甘いんだそうだ。何も香水もつけていないのに、不思議。


 辭はお稲荷さんを追って廊下へ出る。

 すると、隣の部屋の襖が開いているのに気がついた。

 そこは小鬼達が宴会でいつも使う部屋。


 「お稲荷さん?」


 襖を大きく開けると、部屋の中は無人で静かだった。部屋の中央にはお稲荷さんが座っていた。辭はお稲荷さんに近づく。

 お稲荷さんはクンカクンカと鼻をひくつかせると、匂いを追って押入れへと向かう。


 「ここからだ。押入れの中から、辭の甘い匂いがする。間違いない」

 「え? ここから、ですか?」


 こんな所に手鏡を直した覚えはない。それに、辭はこの部屋には入ったことがないのだ。ふと、隣を見るとお稲荷さんが変化していた。初めて変化した時の姿だ。


 「いい匂いだな」

 「そんな姿でそのようなことを言われたら、変態にしかみえません」

 「お前な、これは俺の本当の姿なんだぞ」

 「イケメンに白い耳とシッポを生やした人間の姿であるお稲荷さんを、受け入れろと?

ふっ……それは無理な話です」

 「おい。つくづく失礼だ」

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