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妖御伽譚 上  作者: 鮎弓千景
西の都ー花の京都にてー2
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小鬼達の悪戯8

 ガララと扉を開ける音が聞こえた。お客様が来たようだ。


 「あら、お客様ね。辭、私が話したのは今で全部よ」


 時雨はゆっくりと立ち上がる。玄関先から、すみませーん! という声が聞こえた。


 「はい、只今! 辭、今日の午前一時に隣の部屋を見て見なさい。今年も来てるでしょうから」


 そう言って時雨はお仕事に戻っていった。

 午前一時。会えるのだろうか。小鬼達に。


 「辭?」


 お稲荷さんの黒い瞳が私を捉える。


 (どうしてだろう。黒い瞳が私の心までも見透かしているように思えるのは……)


 「お稲荷さん。私は、まだまだ知らなくてはいけないことがたくさんあるようです」


 正直、時雨から小鬼達の話を聞くまで辭は妖について、まだまだ知らないことが多いことに気づいた。

 気配では善か悪かは分かるけど、実際に善の妖とは触れ合ったこともなければ、話したこともない。

 だから辭は、これから今よりもっと知らなくてはいけないのだ。妖についても、霊についても。

 そして、人との関わり方についても。


 「少しずつ、辭のペースで知っていけばいいさ。今の平成の世は、昔と違ってストレス社会だからな。辭みたいに人付き合いが苦手な奴もそこらに数えきれない程いる。俺は、今までにそんな奴をたくさん見てきた。そいつ等の最期も、成長も」


 流暢に話すお稲荷さんが、少しだけ悲しそうに見えた。


 ピロロロ……


 「携帯、鳴ってるぞー」

 「誰でしょうか」


 しまった、マナーモードにするのを忘れていた。ポケットから携帯を取り出す。一体どこの誰だ。なんとKYな。

 辭も現代っ子なので、時代には追いつけるように流行にのる。


 着信ーー懍


 電話の相手を見た瞬間、一気に萎える。ポチッと、通話を切った。そうだった。この人は生粋のKYだった。


 「ん? 出なくていいのか?」

 「いいんです」


 今度はしっかりとマナーモードにする。すると、また電話が掛かってきた。

 ブーっブーっブーっブーっ……

 手の中で振動する。着信の相手は同じ。面倒だ。


 一向に切れることなく鳴り続ける携帯に、うんざりした辭は通話ボタンを押した。


 「もしも『辭! なんで出ないのよ!』


 耳元で大声を出されるこっちの身にもなってください。


 「今、忙しいんです。それから毎回電話で大声出すのはやめてください。五月蝿いです、ムカつきます」

 『えー? いいじゃん。別に。どうせあたし以外電話する友達いないんでしょ?』

 「その口黙らせますよ? 懍」


 電話の相手は花瀬 懍。同じ妖霊術師で、幼馴染。楿家と同等の力がある家系なのだ。

 そして、辭が唯一名前を呼び捨てに出来る馴染みのある人物でもある。

 時雨と同じ馬耳東風で、マシンガントーク。あのマシンガントークに慣れているのは、ほとんど懍のお陰といってもいい。


 『相変わらずね』

 「褒めてくれてありがとうございます」

 『褒めてないわよ!!』

 「違いましたか」

 『全く違う! ところで、辭、今どこにいるの?』

 「京都です」

 『また仕事? 政府の奴ら、とことんコキ使うわね。一回燃やしてやろうかしら。ったく、税金増やすは、くだらないことで会議無駄にするは、どうでもいい法案ばっか作るは、原発事故について反省してないは、本当政治家って馬鹿ばっかり。学習能力がないのかしらね』


 どうやら今回は政府への愚痴のようだ。

 いつも懍が一方的に話し、私が適当に相槌を打ち、聞き流す。要は聞き役。

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