小鬼達の悪戯8
ガララと扉を開ける音が聞こえた。お客様が来たようだ。
「あら、お客様ね。辭、私が話したのは今で全部よ」
時雨はゆっくりと立ち上がる。玄関先から、すみませーん! という声が聞こえた。
「はい、只今! 辭、今日の午前一時に隣の部屋を見て見なさい。今年も来てるでしょうから」
そう言って時雨はお仕事に戻っていった。
午前一時。会えるのだろうか。小鬼達に。
「辭?」
お稲荷さんの黒い瞳が私を捉える。
(どうしてだろう。黒い瞳が私の心までも見透かしているように思えるのは……)
「お稲荷さん。私は、まだまだ知らなくてはいけないことがたくさんあるようです」
正直、時雨から小鬼達の話を聞くまで辭は妖について、まだまだ知らないことが多いことに気づいた。
気配では善か悪かは分かるけど、実際に善の妖とは触れ合ったこともなければ、話したこともない。
だから辭は、これから今よりもっと知らなくてはいけないのだ。妖についても、霊についても。
そして、人との関わり方についても。
「少しずつ、辭のペースで知っていけばいいさ。今の平成の世は、昔と違ってストレス社会だからな。辭みたいに人付き合いが苦手な奴もそこらに数えきれない程いる。俺は、今までにそんな奴をたくさん見てきた。そいつ等の最期も、成長も」
流暢に話すお稲荷さんが、少しだけ悲しそうに見えた。
ピロロロ……
「携帯、鳴ってるぞー」
「誰でしょうか」
しまった、マナーモードにするのを忘れていた。ポケットから携帯を取り出す。一体どこの誰だ。なんとKYな。
辭も現代っ子なので、時代には追いつけるように流行にのる。
着信ーー懍
電話の相手を見た瞬間、一気に萎える。ポチッと、通話を切った。そうだった。この人は生粋のKYだった。
「ん? 出なくていいのか?」
「いいんです」
今度はしっかりとマナーモードにする。すると、また電話が掛かってきた。
ブーっブーっブーっブーっ……
手の中で振動する。着信の相手は同じ。面倒だ。
一向に切れることなく鳴り続ける携帯に、うんざりした辭は通話ボタンを押した。
「もしも『辭! なんで出ないのよ!』
耳元で大声を出されるこっちの身にもなってください。
「今、忙しいんです。それから毎回電話で大声出すのはやめてください。五月蝿いです、ムカつきます」
『えー? いいじゃん。別に。どうせあたし以外電話する友達いないんでしょ?』
「その口黙らせますよ? 懍」
電話の相手は花瀬 懍。同じ妖霊術師で、幼馴染。楿家と同等の力がある家系なのだ。
そして、辭が唯一名前を呼び捨てに出来る馴染みのある人物でもある。
時雨と同じ馬耳東風で、マシンガントーク。あのマシンガントークに慣れているのは、ほとんど懍のお陰といってもいい。
『相変わらずね』
「褒めてくれてありがとうございます」
『褒めてないわよ!!』
「違いましたか」
『全く違う! ところで、辭、今どこにいるの?』
「京都です」
『また仕事? 政府の奴ら、とことんコキ使うわね。一回燃やしてやろうかしら。ったく、税金増やすは、くだらないことで会議無駄にするは、どうでもいい法案ばっか作るは、原発事故について反省してないは、本当政治家って馬鹿ばっかり。学習能力がないのかしらね』
どうやら今回は政府への愚痴のようだ。
いつも懍が一方的に話し、私が適当に相槌を打ち、聞き流す。要は聞き役。




