小鬼達の悪戯6
小鬼達は、どこから持って来たのか手に酌を持っていた。耳を澄ませば、ワイワイガヤガヤと小さな声が聞こえてくる。
ほら、飲め! さぁ飲め飲め! 飲んだ飲んだ! という声が混じっている。
どうやら、夜中の小鬼達の宴会のようだ。
「楽しそうね」
「あぁ、本当に。万が一退治しなければとも思ってたけど、心配ないみたいだね」
二人は小鬼達の宴会の様子を暫しの間、覗いていたがやがて襖を閉めると一階の寝室へと戻っていった。
***
「本当に小さかったのよ?一つ目で、ちょろちょろと動くの」
時雨は片手でこれくらいかしら、なんて言いながら小鬼達の大きさを必死に表している。
「百聞は一見に如かず。見た方が早いんだけどね」
一旦そこで話を区切ると、時雨はお茶を啜った。辭も彼女に倣うようにお茶を啜る。
お茶は少し温くなっていた。
「続きを話すわね。私達はあれから、何度もあの部屋に小鬼達の宴会を見に行ったわ。
いつ見ても楽しそうだった」
小鬼達の宴会が一週間も続いた時だった。
ある朝、時雨がいつも使っている櫛が無くなっていた。黒色のゆるやかなカーブのフォームに、桜が描かれたもの。
それは幸が時雨に贈った大切な櫛。
時雨はくまなく探した。部屋の隅の隅まで。けれども見つからなかった。
結局、櫛は見つからないまま、仕事をすることになった。頭の中は無くした櫛のことばかり。
休憩中もずっと探していた。
カタンーー、カウンターの机から何かが落ちた音が聞こえた。時雨は物音の所へと視線を移した。
そこには探していた櫛が落ちていた。見ると、いつもペンを直している引き出しが開いている。
「良かった……こんな所にあったのね。そっか、この前使った時にペンと一緒に直しちゃったんだ」
(でも、どうして?)
時雨の視界に小鬼達が映った。いつも暗闇で一つ目と体の形程しか見えなかったが、今は昼間。
姿がよりはっきりと見えた。一つ目に、赤い体、二つの角が生えている。
小鬼達は時雨と目が合うと、やれ、成功したぞ! 悪戯成功だ! と嬉しそうにはしゃいで、わー! と子供の様に叫びながら逃げていった。
それからというもの、小鬼達は毎日欠かさず悪戯と称して時雨達の探し物を見つけては、わざと見つかりやすい所に移動させるようになった。
「あれで悪戯なんて」
「何だか楽しそうでいいじゃない。本人達がそれを悪戯と呼んでいるんだから、きっと悪戯なのよ」
時雨も幸もすっかり小鬼達の悪戯に慣れ、悪戯に驚くフリをするようにもなっていた。その度に小鬼達がとても喜ぶため、いつしか小さな者達との関わりは毎日の楽しみとなっていた。




