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妖御伽譚 上  作者: 鮎弓千景
西の都ー花の京都にてー2
19/133

小鬼達の悪戯3

 部屋を出て一階にいる時雨の元へ向かう。

 その時、辭の背後から小さな影が辭の部屋へ入るのをお稲荷さんも、辭も気づいていなかった。


 リズムよく階段を降り受付所のカウンターにいる時雨に近づく。時雨は帳簿をつけていた。

 気配で辭だと分かったのだろう。帳簿に視線を向けたまま、時雨は口を開いた。


 「どうしたの? 辭」

 「あの、えっと……」


 なかなか話出さない辭に不思議に思ったのか、時雨は手を止めると私の方を向いた。ゴクリと唾を呑み込む音が鮮明に耳に届く。

 辭の肩にはお稲荷さんが座っているが、口を開こうとはしない。どうやら事の成り行きを見守るよう。


 「あの……時雨さん……」

 「どうしたの?」

 「あの、ですね……」

 「うん」

 「ここには、時雨さんと幸さんの結界が貼ってあるんですよね」

 「えぇ、そうよ。それがどうかしたの?」


 (言ってもいいのだろうか。時雨さん達は、私に話してくれるのだろうか)


 「実は妖が、入り込んだようなのです」


 話すにつれて語尾が小さくなる。服を握る手が微かに震える。時雨は何も言ってこない。もしかして、続きを待っている?


 「私は、ここに妖が入り込んだことなんて一度もないと思っています。ですが、本当に入り込んだことなんて一度もないのかと、お稲荷さんに言われて。気に……なってしまって。私に知られたくないことならいいんです。でも、これだけは知りたいんです。時雨さん。本当に過去に一度も妖が入り込んだことなんて、ないんですか?」


 ここまで言って、辭は顔を俯かせた。何て言われるのか分からない。時雨の顔を真っ直ぐ見ることは出来なかった。

 時計の音だけがこの場に響く。


 「お稲荷さんの言う通りよ」


 やがて時雨は口を開いた。


 「本当は、過去に何度か妖が入り込んだことがあるわ」


あったんだ……過去に何度か。


 「でも、辭には関係ないことだと思って、ずっと誤魔化してきたの」


 その言葉を聞いて、辭の肩がビクリと揺れた。関係ない。確かに辭は時雨達から見て、親戚・義妹だ。家族ではない。

 顔を上げることは出来ないまま、自然と手に力を込めていた。


 「そうよね。辭はもう大人だものね。そろそろ知ってもいいと思ってた。幸さんも私も貴女がとても大事だから」


 ギュッと優しい温もりに包まれる。


 「辭、聞いてくれる? この宿に毎年入り込む小鬼の話を」

「はい」


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