小鬼達の悪戯2
「お稲荷さん」
「うぅ……何だよ!」
ジト目で辭を見てきた。可愛い。すっかり拗ねてしまっている。
「それ、ウザイのでやめてください」
トドメの一撃は大きな杭。お稲荷さんのガラスのハートに深く刺さった。
「はぅあっ……!」
あら、泣いてしまった。お耳なんて垂れ下がって、いじけモードに突入だ。
「うぅ、辭の鬼!」
パンっパンっ……
乾いた音が辭の耳に届いた。お稲荷さんもそれに反応して、襖の向こうに視線と意識を集中させている。
今のはノックの代わりだ。一回は、手伝いが必要な時、二回は、用事か頼まれ事だ。
今鳴ったのは、二回。
「はい。時雨さん? それとも幸さんですか?」
しばらく待ってみたが返事がないので辭は左手に札を持ち、慎重に襖へと近づく。
襖の向こうの気配を探る。微かに妖の気配がした。
「何奴ですか?!」
辭は妖の気配を感じとった途端、一気に襖を引いて札を投げつけた。が、札の貼られた場所には妖も何もいない。
確かに気配がしたのに。
「何だ? 何もいなかったのか?」
トテトテと辭の足元へ歩み寄ってきたお稲荷さん。不思議そうにそこを見上げている。
「だけど、この宿には時雨と幸が結界貼ってるんだろ? それを破って入れるのは、小物か悪意や殺意がない輩ぐらいだ。さっきの気配に悪意はなかったぞ」
「そうなのですが。この宿に妖が入るなんて今まで一度もなかったのです」
(そう、一度も)
「本当に一度もないのか」
「え?」
「それは辭がいた時だけかもしれねぇ。もしかしたら、過去に何度か入ってきたことがあるとも限らない。時雨か幸に聞いてみるのもいいんじゃねぇか」
フワリ、フワリとシッポが左右に揺れる。お稲荷さんの意見にも一理ある。
あの二人は、こういう事に対しては口をなかなか開いてくれない。果たして、開いてくれるだろうか。




