お稲荷さん9
そんな隙を逃さないとばかりに、辭の眼前に相手の爪が襲いかかる。
(よ、避けられない…… !!)
目を閉じる。これから起こる痛みに耐えられるのか。
しかし、いつまで経っても痛みは襲ってこなかった。
閉じていた目を開けて、辭が見たものはーー
「辭、怪我ないか?」
白い耳と尻尾を生やした綺麗な男の人が、自分を庇い剣で相手の攻撃を防いでいた。
そしてそのまま相手の攻撃を弾き返すと、真っ二つに斬り裂いたのだ。
化け猫は断末魔を上げる暇もなく、サラサラと砂へとなっていく。
「片付いたな。」
ふぅ、と溜息着いた男の人は、剣を鞘へと戻す。
(あっという間に片付いた。ものの数秒足らずで……すごい。でも、この人、誰?)
「ん? どうした?」
辭の視線に気がついたのか、男はその焦げ茶色の瞳を覗き込んだ。
(近い……)
顔が熱くなるのを感じながら、辭はパッと男の手を振り払う。
「あの、誰ですか?」
そう問えば、白い彼はきょとんとして絶句していた。
「それ、その……コスプレですよね?貴方は変態さんですか?」
グサ、グサグサ…!
白い彼に言葉というナイフが突き刺さる。
「違うっ! 俺だ! お稲荷さんだ!」
「はぇ ? !」
なかなか信じようとしない、不審な目を向けてくる辭。お稲荷さんと名乗る白い彼は、仕方なく変化することにした。
「ほら!」
ポンっ……
そこには先程までの可愛らしい白い子狐のお稲荷さんがいた。
(これー子狐ーがあれー変態ーに!!?)
顔を俯かせ、ガタガタと震えている辭。
「ど、どうした? 辭?」
「ぅ」
「ぅ?」
「嘘ですぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!」
朝日が昇り始めた五重塔から、辭の叫びが虚しく空へと木霊したのであった。




