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日本国憲法、大日本帝国憲法と2年連続で自由研究の課題を憲法としてきた二人は、中学校3年生の夏休み明け、宿題を提出した次の週の月曜日に、担任に職員室に来るように言われた。
担任は、1年生の時から変わっていない。
「さて、伊野上守くんと大岩桃子さん。憲法という題材でよく自由研究ができたね」
「法律が好きですから。なんでかは、自分でもうまく言えませんけど」
伊野上が担任に答える。
「好きになるっていうのは、そういうものよ。自然にね。ああ、それで、読んだのはこれをしてみたらどうかなと思って」
担任が差し出したのは、『三省堂』が出している『教育六法』だ。
「教育勅語って知ってる?」
「確か、戦前の教育の指針だった物ですよね」
桃子が答える。
「そうね。今じゃその効力は失われているけど、重要な徳目としていくつか挙げられているのがあるし、歴史を教える上で、資料として必要だからこうして載せているのよ」
「じゃあ、これしてみます」
「頑張ってね。ああ、その六法は、ちゃんと返してね」
「はい」
二人は、返事をして、職員室から出た。