ただいま神様逃亡中
夜、テレビを見ていると、
「臨時のニュースが入りました」
いきなり見ていた番組が切り替わり背広姿のアナウンサーが現れた。
「なっ!!ちょうどいいところだったのになんだよ一体!?またどっかが戦争でもおっぱじめたか?それとも大災害に見舞われたか?」
すると画面の中の堅苦しい感じを漂わせるこの人の口から思いもよらぬ言葉が発せられた。
「たった今、天国から神様が脱走しました」
理解するのに約1.5秒かかった。
「……なんじゃそりゃ!!!!???」
テレビの中の男はたんたんと続ける。
「全世界に指名手配しています。見かけた人は早急にヘブンダイヤル××ー××××ー××××までおかけください。なお、有力情報には懸賞がかけられています」
「見かけた人って神様なんて見たことないし」
「これが、脱走前夜に残された神様の映像です」
画面が切り替わりそこに現れたのは……。
「親父じゃ〜ん!!!!!?????」
テレビに映し出された神様はまさしくオレが小さい頃に死んだ親父そのものだった。
「と、言うわけで、神様が脱走中ということで神様が戻られるまでご子息であるあなたが神様代理ということで」
背広姿でいかにも不健康で頬がやつれている男がペコペコと頭を下げながら言った。
「無理だろ!!なにがと、言うわけだよ。神様はなんだ?世襲制度なのか!?普通神様補佐とかいんじゃねえのかよ!!ほら、天使くんといんだろ天使くんとか」
そういうと不健康そうな男は右手を後頭部へ持っていき、気まずそうに言った。
「それがあいにく…地獄やら黄泉の国へみんな出張中なんですよねえ」
「だったらさっさと連れ戻せや!!こんな一大事のときに何やってんだ!!社会人としてどうなんだ!?え!!??」
天使が社会人かどうかは怪しいものだが出張と言っているので仕事で出向いているということは確かである。
「そうしたいのはやまやまなんですがね、ポケベルがつながらなくて」
内ポケットからポケベルを出しながら言う。
「携帯にしろ!!遅れてんだなあ天国って。何十年前の代物だよ」
1995年の代物だ。
「と、言うわけで、どうか神様代理になってくれませんかねえ」
今までの話はなかったかのように言った。
「またと、言うわけでかよ。ヤダよそんなの。だったらあんたがなりゃいいだろうが。てか、あんたは一体何もんだ!?」
よい子の皆さんは名乗らないような人を家に上げてはいけません。
「私はすでに役職があるので神様代理にはなれないんですよ。掛け持ちは出来ないんです」
「その役職ってなんだよ」
すると男はさらっと言ってのけた。
「閻魔大王です」
「腰の低い閻魔大王だなおい!!そんなんじゃ嘘みやぶれねえぞ!!」
「そうなんですよねえ。押しに弱いんですよ。それに緊張しいだし。胃腸が弱いんですよ。朝起きると必ず足がつるし……」
右手で腹を押さえながら顔面蒼白で言う。
「もういいもういい!!そんなん聞きたくないわ!!こっちまで調子悪くなるっての」
「だったらなってくださいよ〜。私を助けると思ってえ。お願いしますよ〜。このとおりですから」
後からなにやら箱を差し出す。
「そんな天国名物天使の輪菓子なんていうの差し出されてもですねえ。名物なのに聞いたことないしねえ」
見た目はただのドーナッツなのはここでは黙っておこう。
「だったらこれなんてどうです?天使の羽ペン」
普通の羽ペンと違う点を答えることが出来ないのはここでは黙っておこう。
「羽ペンよりシャーペンのほうが使い勝手があるからなあ」
「じゃあっじゃあ。この神様ファースト写真集なんてのは」
ちゃんと閻魔大王さまへとサインが書いてあるのは黙っておこう。
「親父の写真集なんて見たかねえわ!!」
「おかしいなあ。あの世だとベストセラーなのになあ」
「あの世とこの世を比べるな」
「それならこれはどうですか?閻魔大王推奨胃薬ハラ・イタナーイ」
パッケージはもちろん閻魔大王さんだ。
「余計悪くなりそうだよあんた見てると」
「じゃあこれなんてのはどうです?閻魔大王式エアロビクスフィットネスビデオ完全版」
その笑顔は汗で輝いていた。
「余計不健康になりそうなんですけど」
「これならどうだ!?閻魔大王エキスたっぷり栄養ドリンコ」
横に小さく“しぼりたて”と書いてあるのは黙っておこう。
「エキスってなんだエキスって。それにドリンクじゃなくてドリンコだしね。ダオドーか?」
すると閻魔大王はしびれを切らした。
「だったらどの健康食品がいいんですか!?」
「そう言う問題じゃねえだろうがよ!!話を戻せ戻せ!!俺が言うのもなんだけどさ」
「そうでしたそうでした。つい熱くなってしまって申し訳ありません。それではこの神様ファーストDVDなんか」
初回限定版なのはココではあえて黙っておこう。
「そこに戻ってどうすんだよ!!ファーストってことはセカンドもあるのね!?」
「ライトとセンター。キャッチャーなんてのもありますが」
ぞくぞくと出てくる。
「わけわかんねえよ!!!いらねえよ!!ぜんっぶ持って帰ってくれ!!」
「なんて無欲な人なんだ!!」
そのまなざしはまるで神を見ているようだった。
「無欲とかじゃないから!!どれもこれも魅力が何にもねえだけだよ!!」
「やはりアナタのような人が神様になるべきなんです。お願いします。プリーズ!!」
両手とおでこを地面に押し付けてお願いする。
「なんで最後英語なんだよ。それに神様って何やんのさ」
頭をあげて口をひらいた。
「神、それは全知全能で宇宙を創造し支配する唯一絶対の主宰者とされる存在。って辞典に載ってたよ」
「辞典に頼ってんじゃねえよ!!実際どんな仕事があんだって聞いてんだよ!!神の意味ぐらい知っとるわ!!」
「おみそれしました。ええっとですね。神様はですねえ。なんていうですかねえ。まあ、あれですよ。それです。」
「どれだよ!!!!閻魔大王だろうが地獄に突き落とすぞコラ!?」
その形相はまるで閻魔大王だ。それを見た閻魔大王は必至に取り繕う。
「仕事内容は秘密なんですよ。なった者しかわからないというか、教えてはならないみたいな噂が」
「噂ならいいだろうがよ。噂だったら教えてくれよ」
なんでもちまたの奥様達の話題の的だそうだ。
「噂といいますか、なんていうんでしょうねえ。まあ、あれですよ。それです。」
「だからどれだよ!!!!!閻魔大王だろうが逆腕ひしぎ十字固め決めるぞコラ!?」
その形相はまさしく閻魔大王もちびっちゃうくらいの形相だった。
「ですからなってもらってからお話しますから」
「なんだよなんだよ。せっかくなってやろうと思ってたのに」
「本当ですか!?だったらなってください」
「教えてくれたらなる」
「ですから全知全能で宇宙を創造し支配する唯一」
「意味じゃねえよ!!だから知ってるってんだろうがよ!!紙やすりで顔の凹凸なくすぞこら!?」
その手には荒い紙やすりが握られている。
「六めんなさい。あ、間違えた。ごめんなさい」
「わざとだろてめえ!!どこの誰がゴメンを六めんって間違うんだよ!?」
「ああはいはい。もういいですよ。そんなに断るんならこっちだって最終手段を使うまでですよ」
何かが切れた閻魔大王は開き直ってリーサルウエポンを使った。
「なんだよ。その最後の手段ってのは」
「あなたが死んだとき地獄に突き落としてくれるわっ!!」
「うわっ卑怯すぎるぞそれは!!!最後の手段にもほどがあるぞ。恥を知れ恥じを!!脳裏に刻み込め!!嫌なら俺が彫刻刀で刻んでやる!!」
「地獄は苦しいですぞ〜。恐ろしいですぞ〜。辛いですぞ〜」
さっきとは一変して強気の姿勢だ。なんて意地が悪いんだ閻魔大王。私は失望する。
「ええいうるさいうるさい!!やんないもんはやんねえんってんだべらぼうめ!!!」
するとテレビが騒がしい。
「ただいま神様脱走事件に新たな動きがあった模様です」
「ん?なんだ?どした?」
「なんと、神様が見つかったとの事です。いま映像が……来てますか?……はい、来てるようです。それではどうぞ」
画面が切り替わった。
バババババババ
『そこの神様。止まりなさい。止まりなさい』
暗闇の中を神様らしき人物が走っている。頭上が黄色く光っていて位置はよくわかる。
「おいおい、ヘリコプターまで出動しちゃってるよ。ってかどこだ?暗くてよくわからんが……」
「後のほうにぼんやり何かが見えますよ」
「ん〜。ありゃ……俺ん家か!!!????」
ピンポンピンポンピンポンピンポン
怒涛のごとくインターフォンが押される。
「神様がなにやらある家のインターフォンを押しています。逃げ込むつもりです」
ガチャ
「ドアが開きました。そして、中へと入っていきます。神様は一体何をする気なのでしょうか」
「神様〜。戻ってきてくれたんですねえ〜」
閻魔大王が抱きつこうとする。
「ええい誰が戻るか馬鹿者!!」
足で蹴って閻魔大王は床に転がった。閻魔大王の顔は少し嬉しそうだ。
「そんなこと言ってないでさっさと戻ってくれ!!オレが神様代理にされるとこなんだぞ!?」
すると神様は腰に両手を持って行き、
「何事も経験だ。」
ずばっと言った。
「迷惑だっつうの!!ってかてめえはなに逃げてんだよ!!ちゃんと仕事まっとおしろダメ親父!!日本人の三大義務を守れ!!」
「もう死んでるからいいんだよ〜だ」
その顔はバカ丸出しだ。
「ちくしょう!!殺してやりたいけどすでに死んでやがる!!!」
すると閻魔大王が目を覚まして神様に言った。
「神様、今戻れば反省文くらいですみますから」
「軽いな〜。脱走で反省文って。あ、そうか。2万枚くらい書かされるのかな?」
「ええ?2枚も書けな〜い」
神様は嫌な顔をしていじけた。
「小学生の感想文程度じゃねえか!?そんなのも書けねえのになんで神様なんてやってんだよ!!」
「抽選でしたからねえ」
懐かしそうに言う。
「お前ら神様を拝んでるやつら全員に謝れ!!抽選ってなんだよ抽選って」
「番号を書いた紙を箱に入れて、それを前神様が引いて」
「だから抽選の意味くらいわかってるっちゅうの!!!!漂白剤に浸して脱色するぞこら!!」
閻魔大王は顔面蒼白だ。
「そういえば、見ないうちに大きくなったなあ。昔はミジンコくらい小さかったのに」
親指と人差し指で大きさを表現する。どう見ても親指と人差し指はくっついている。
「そんなに小さくなかったよ。オレ4歳くらいだったもん。ミリ単位じゃなかったなあ」
そこで閻魔大王が感極まった。
「感動の再会だ〜。バラ珍以来の感動だ〜」
汁という汁が流れ出る。これが閻魔大王エキスか!?
「どこで感動すんだよ!!親父逃亡犯だぞ!?家の周り囲まれちゃってんだぞ!?」
「オレって人気者だなあ」
テレながら言う。その顔は少し得意げだ。
「誰一人サイン求めてねえから。全員自首を求めてるから」
「親子だからって恥ずかしがることはない。サインぐらい好きなだけ書いてやろう」
その手にはすでにサインペンが握られている。
「だから誰も求めてねえって言ってんだろうがよ!!!一体何しに来たんだよ!!」
「一つだけお前に言いたいことがあって来たのだ!!まずひと〜つ!!」
指を高々と突き上げる。
「絶対一つだけじゃないでしょ。まずって言っちゃってるもんね。」
「神様なんかに頼るのはもうやめだ!!」
「神様が言っちゃったよ」
「なぜなら神様は脱走中だからな!!いくら祈ったところで願いはとどかん!!」
「ここにいちゃってるからね。そりゃ届かないよ」
「拝んでる暇があったらその祈る両手で未来を掴み取れ!!!!本当に叶えたいんだったら他にやることがあるはずだ!!!!」
「逃亡してなかったらもっと威厳があったんだけどねえ。でも逃亡してないと言えないセリフだしなあ。まあ、神様としては失格だけど、父親としては合格かな」
息子は少し笑った。
「それともうひと〜つ!!」
人差し指と中指を高々と突き上げる。
「やっぱり一つじゃ終わらなかったか」
「母さんをよろしくな」
「へっ、神様だったら自分の願いくらい自分で叶えろよ」
「よう言いやがる」
プツ
いきなり部屋が真っ暗になる。
「ん?停電か?」
神様はハッとして言った。
「強行突入かっ!?」
ガシャン
プシュー
窓ガラスが割られ、煙が部屋に充満した。
「ゴホッゴホッ!!」
「ゴッホ!!ゴッホ!!ヒマワリ!!ヒマワリ!!」
「そんなふうにセキ込む奴いねえだろ!!オホッ!!」
「どうだ、いたか?」
「いません。逃げられました!!」
重装備をした男達がしゃべっている。
「ゴホッ!!オエッ!!オオオオエ!!!」
「吐くな閻魔大王!!!こらえろ!!!男を見せろ!!!大王としての威厳を見せるんだ!!!!」
「胃酸なら今すぐ見せれるんですけどね……」
先ほどとは違う汁という汁を垂れ流しながら言う。
「見せんでいい見せんで!!もし出しても空中で飲み込め!!」
「そんなムチャなウエアッ!!!!」
「ぎゃああああああああ!!!!!」
部屋の中にすっぱい匂いが充満した。
「それでは、帰らせていただきます」
閻魔大王は来たときよりも不健康そうに見える。
「元気でな。すっぱい香りを臭うたびに思い出すよ」
その顔が笑顔でも目は笑っていない。
「その節は申し訳ありませんでした。お詫びに受け取ってください」
ポケットから取り出し渡した。
「なになに?閻魔大王じるしの酔い止め薬ヨイ・マセーンっているかこんなもん!!効き目ゼロだろ絶対!!」
地面にたたきつけて足でぐしゃぐしゃにした。
「では、これで。へい、タクシー」
「タクシーで帰れちゃうの!?普通、空とか飛んでくよ」
「成田まで」
「飛行機!?直行便とか出てんの!?国際線でいけるんだ」
ツアーだともっとお得だということはココでは黙っておこう。
「シーユーネクストウィーク」
「来週また来るつもりか?もう来なくていいから」
「ハイヨーシルバー」
「馬じゃないって!!金属の塊だから」
「パカラッパカラッパカラッ」
「口で言っちゃてる〜!!」
タクシーはエンジン音をあげながら去っていった。
「まったく。親父は今頃どうしてるんだか。」
家の中に入り靴を脱いですっぱい香りがする部屋の前を息を止めて通り過ぎる。そしてあることに気がついた。
「おふくろいねえ・・・」
誰もいない部屋からテレビの音が聞こえてくる。
『神様はいぜんとして逃亡しています。一体どこに。おっと、いましたいました!!あ、あれ?一人増えてます!!女性です!!神様が女性を連れています!!あれは一体誰だ!?女神か!?神様は女神と共にいぜん逃亡中です!!神様逃亡中!!ただいま神様逃亡中です!!』
tHe EnD
神様を信仰しているすべての皆様へ。
ごめんなさい。