そのにー
「うわぁ、ホントに来てくれた。北条くんありがとう。」
若松さんに右手を握りしめられてしまった。そんな嬉しそうな顔をされると、来たかいがあるというものだ。この一日僕は若松さんのことをいつも以上に気にして過ごしたのだが、若松さんは昨日のことなどなかったかのようだった。そんな中緊張しながら第二理科準備室の扉を開いたら、椅子にちょこんと座っていた若松さんが駆け寄って来てくれたのだ。うん、幸せ。
「他の部員は?」
僕は部屋の中を見渡したが、フラスコやビーカーなど実験器具の入った棚があるばかりだ。
「部員は私と北条くんだけだよ。」
「えぇ!?」
「ちなみに私が部長、北条くんは副部長。お願いしてもいいよね。」
「てっきり、もっと部員いるもんだと。昨日も忙しそうだったし。」
「昨日は先生と部活についての最終確認みたいなのがあったから。そ・れ・に奇人変人がそんなに簡単に見つかるわけ無いよぉ。なんたって最終目標は魔法使って異世界に行くことなんだから。」
そんなに、明るく返されても困る。
「昨日と最終目標変わってるけど。」
「日々目標は変わっていくものだよ。」
それが達成出来そうそうな目標ならいいんだが。
「そういえば気になってたんだけど、どうして僕を勧誘したの。自分ではそんな奇人変人な気はしてないんだけど。」
「そうだよ。北条くんは普通の人だと私も思う。」
「え、じゃあなんで。」
「突っ込み役が欲しいな、って思って。」
「は、い?」
ううん、思考がついていけない。
「考えてもみて、奇人変人だけ集めてもそれはただのカオスな空間になるだけだわ。そこに一人突っ込んでくれる人がいたらうまくまとまると思わない?北条くん暇そうだったし、帰宅部だし、突っ込みもうまそうだったから。」
つまり、身近なその項目に当てはまるのが僕だったというわけか。
「い、言っとくけどこれまでの人生の中で突っ込みうまいなんて言われたことないし、僕一人暮らしだから帰ってからやることたくさんあるんだけど。」
「えぇっ、そうだったのごめんっ。」
若松さんは可愛いが性格に問題大ありだ。それにこんな変な部関わらないほうがいい。そう思い立ち去ろうとしたのだが、
「う、突っ込み下手でもいい。家のことで大変なら私手伝うから。だからお願い入部して。」
声を震わせてうつむく若松さん。女の子のそんな様子を見たのは初めてで、そうさせてしまったのが僕が原因だと思うと立ち止まってしまった。どう声をかけたらいいか悩んでいると、
「だって、もう入部届け北条くん副部長ってことで学校に出してきちゃったんだもん。」
ぺろん、と目の前に出された紙には僕の名前と学校の印が押されていた。
・・・。えぇえぇえぇ!?
「って、何かってなことを!」
「だって入部しないって言わなかったじゃん。」
「言わなかったけど、入部するとも言ってないっ。」
まあまあ、と若松さんは取り合ってくれない。
「やることっていっても奇人変人を集めて楽しく仲良く自由にしようっていうだけだから。部活中は本読んだり、宿題やったりしててもいいよ。」
それは部活動としてはどうだろう、と思うが。
「そういえば若松さんもその・・・奇人変人なの?」
「決まってるよ。奇人変人が好きな奇人変人だよ。」
笑顔でそんなことを言わないで欲しい。