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序章の あ

人生超〇〇!!

※〇の中身は各自自由に尊厳と自信を携えて揺らぐ青春を片手に強がりましょう。

ある日の午後。

職場の上司に言われた。


「お前ほどの奴は初めてだ」


上司にとって自分の存在は未知の物らしい。


「お前のすること総てがのろい。いいとこなしだ。」


語気の荒い、強烈な叱咤の言葉。

上司はこちらを見ていない。


「やる気や頑張りは要らないんだよ。」


僕にある種の電撃が走った。

頭の頂上から爪先の末端までくまなく。


僕は会社を辞めていた。





僕。


御年21歳。


京都のとあるド田舎に産まれる。


海のさざ波と山のせせらぎを聞き、先の事を何も考えずに自由奔放に育つ。


若干12歳。

中学生になった春。

一人称は僕から俺へと変じ、強さに憧れて柔道部に入部申請を提出。


このことは後に、「初めて自己意思が芽生えたと嬉しさでいっぱいだった」と親に聞かされる事になる。


しかし入部の結果、同期の面々との力量に戸惑いを感じだす。

成績はと言うと、弱い癖に柔道しかして来なかった為に至って端的。

アヒルと電信柱が並ぶ正に“最悪”な通知表が毎年届く。語る言葉はなにもない。

先生によるコメント欄の「真面目で、成績も若干ながら右上がりになっている」は、もはや恒例として姉の失笑をかう。


まさかこの歳で自分に頭を抱える事になろうとは。


かつての無邪気な自分が思い描いていた自画像は、皆に好かれ、皆に頼られ、皆の中心にいる人気者への転身だった。

あの頃の頭をカチ割れたのなら、きっと今頃は世界規模の花屋さんだったに違いない。


現実は見事にカースト下位の空気Aである。


それもそうだろう。

クラスメイトのほとんどがかれこれ6年越しの付き合いなのだから。


自分でかちわるまでもなく、お花畑は跡形もなく、小さなごみ箱は満杯になった。


ヒトには埋まらない差が在ることをしり、いいとこなしな3年間の幕が顔面にあたる。

最後の最後に起きた奇跡は、輝く5の尊顔。


美術だった。



高校生。

それから、生活態度というあやふやな評価も相成ってか、なんとか水産系の高校に進学を成功させる。というのも、俺はいつの間にか必殺技を身につけていたからだ。

俺は見た目からやる気が充ちていたらしい。



せっかくの高校。

せっかくの地元外。


中学での過ちは繰り返すまい。

心は堅く決まっていた。


入学式も終了し、各自思い思いに自由な足並み。

そして、体育館の外に踏み出せば、待ってましたと瞳を輝かせた先輩方と遭遇。

しかし俺は長年培った空気Aとしての実力をおおいに行使する。様々な部活動の勧誘を伝家の宝刀で振り切りつつも、目的地は敷地内の隅の隅。本校自慢の持ち港に在る、小さな夢に足早で目指した。



俺は、、、俺はマリンバイオ部に入って勉学に励むんだ!!



翌日。


俺は畳の上で正座をし、熊人間の横で馬鹿みたいに黙々と闘う男達を眺めていた。


事の曲がり口…いや、始まりはこうだ。


足早に目指した港。


しかし、部活動選びは回数固定でシンポジウムが強制されていた。


格技場で響く摩り足。

胸の深くに当たる弾かれた畳の音。


部活動は決定した。


その名も“柔道・レスリング部”。


三年間の反省はついに活かされなかった。


柔道経験者という立場上、初めの内は他の経験者を除き、同期に対し無双の強さを誇っていた。だが、それも最初の1ヶ月のうち。


俺の特徴、

その①:成長しない。


同期生達はみるみる頭角を現し、俺はみるみる最弱の地位におさまる。

付いたあだ名は“マネージャー”。

勿論むさ苦しいこの部活にマネージャーなど存在しない。これは見事に“取り柄=真面目”が招いた結果にほかなるまい。


さようなら、空気A。

こんにちは、キング・オブ・雑用。



入部して3ヶ月がたった7月。

早々と引退していった先輩方を見送り、同時に部内はギクシャクし始める。


原因はこれだ。

我が部の正式名、柔道・“レスリング”部。


レスリング?


まぁ、確かにシンポジウムの時から説明はあった。


「この部活は、柔道とレスリングを交互に練習し、強い身体と正しい心を極めんとする部である!」


……実際はもっと違った気がするが、コーチとなるこの鬼瓦を付けた熱血熊ゴリラの熱意で、そう聞こえていたのはその場の全員だったに違いない。かくいう俺も、その熱さに燃えて入部を希望したのだが、その時はレスリングのレの字はおろか、本場の表記ではWから始まる事さえ知らなかった。そんな俺が、この先起こる波乱を予想出来るはずがない。



話を戻そう。



そのシンポジウムには続きがあった。


「交互の練習とは言ったが、これは原則である。大会が近ければそちらを優先するのも、是として行う物とする!」


……そうだ。

ついにその時が来てしまったというやつだ。


知識者が曰く、「レスリングってあのツリパンとかいうユニホームのやつだよな?」


無知者が曰く、「おいおい、これぴっちぴちじゃねぇか!」

皆、思い出したようにどよめく。


それから初めてと言う理由で見せられたのは、レスリングのオリンピック選手のドキュメンタリビデオだった。


初めて知ったレスリングは、どことなく昔見たバラエティ番組のきわどいコスチュームを彷彿とさせる。

静かに見渡せば、一人また一人と顔が引き攣り始めていた。

どうやら皆も同じだったようだ。


前に座るただ一人の2年生など、すでに半分腰が浮いていたのをよく覚えている。


しかし、練習は敢え無く開始された。


なぜなら、入部と同時にあるものを買ってしまっていたのだから。


柔道着。それと靴。

千円や二千円なんて物ではない。


レスリング専用のシューズだった。

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