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その渇きは癒されぬほどに

 飢えていた。それは渇望と言っていいほどの純然たる飢え、戦いに巻き込まれ、無惨に切り刻まれ、散ることなど、忘れ去られ、消えゆくだけの運命を思えば、些細な事だった。

 

 だから、悪魔の囁きに彼女は乗ってしまったのだ、たとえ、その先に待つのが絶望だけだとしても。


「約束は守ってもらう」

なにが約束だというのだ、わかっていて彼女は口にする。その約束にすがらなければ、その唯一の贖罪がなければ、彼女の心は折れ果ててしまう。


 その悪魔は彼女の方を一度も見ない、吐き気のするこの男の顔など見たいとも思わないが、彼の顔を見たことなど、契約したあの時以来だ。

 

 その男は宙を見る。世界と世界の裂け目、多重なる自身の存在を見るのだと、男はいった。


 いっそ、刃を突き立てようかと幾度と思った事だろうか。男は害したふうもなく言う「いつでも、むしろ是非にと妖精の女王よ」


 R.J.Noman.イエイツ、その誰でも無いと言う男は言う。 


 しかし、彼女は踏みとどまる、その約束の為に唯一の贖罪と言えるその約束の言葉に縋る。

 

 真実であって欲しい、いや、それが真実でなくても良い、のモノが彼女を巧言令色こうげんれいしょく巧みに騙してくれさえすれば、彼女の心は壊れずにすむのだ。

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