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陰陽師探偵『白石直人』  作者: 只深
case2:桜田門の異変

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9/24

case2-1 依頼

「断る」

「そこを何とか!今回は先生のお力をお借りしないとどうにもならないんです!!」

 

「どうしてもっと早く相談しなかったんだ?【陰陽師探偵『白石直人』】に頼むって判断を遅らせたのはお前だろ。

 今回、神々廻がいなければ大変なことになっただろうなぁ」

 

「は、はい」

「良かったな、今までよりも使いやすくなって。こいつに礼はしたのか?」

「いえ、その……」



 

「へーえ?お前たちって本当に昔から変わらねぇな。立場が上だから下が聞くのは当たり前だと思ってる。組織外には通じねぇよ、そんなの。特殊類希事件捜査課は俺の肝入りだって覚えてくれ」

「…………」


「『人に物を頼む態度』っての()だ。まずは案内してもらった人に頭を下げたらどうだ」

「それは、」


「出来ないってか?まぁそれが出来たら、この時点で慌ててないよな。

 お前みたいな中途半端な奴は、無意味なプライドを守るのに忙しい。ほんで、本質の問題を無駄にでかくしやがる。だから嫌いなんだよ」



 

 甘い白煙に満たされた室内。白石が吸うタバコの帳の中でもわかる、上役の鋭い視線。

 それを避けて神々廻は窓の外へ目をやった。木枠の四方には鬼一、黒いカラス、白狐、黒猫が顔を覗かせている。

それぞれが完全に蚊帳の外で、室内に残された神々廻の気まずそうな顔を見て嗤っていた。


(くそ、人ごとだと思いやがって)

 毒づいたあといつものように舌打ちしようとしたが、目の前で額の汗をハンカチで拭う人物を思い出し、唇を噛んだ。



  

「無駄話はもういい。今回の依頼は?」

「はい……白石先生は、狐専門家をお持ちでしたよね」

 

「専門家は()()()()に山ほどいるぜ、荼枳尼天、(だきにてん)宇迦之御魂神ウカノミタマノオオカミ、大妖怪の玉藻前(たまものまえ)、それから……」

 

「でしたら、早期解決のためにご協力頂けませんか」

「人の話を遮る、ってのは失礼に当たると教わらなかったか。

 言い訳くらいしろよ、それともそうする必要がないと思ってんのかな。随分侮られたモンだ」

 

「いえ、あの」


「俺は特殊類希事件捜査課の銀の警笛になったが、警察の手先になった覚えはねえ。

 なあ、俺がこの仕事を始めてから警察が依頼してくるのは何回目だ?」

「は、ええと」

 

「正式な依頼手順は『依頼書、経緯報告書を持って来い』って最初に言ってから何年経った?一度も正しい手順を踏まれた試しはなかったな」

「…………」


 

 

 冷や汗をかきつつ再び視線を送ってきたのは警視総監秘書だ。神々廻は仕方なくそれを受け止め、不機嫌な白石に向かって頭を下げる。

 

「お師さん、無礼を承知で俺からも頼みます。必要な書類は用意しますから」


「いいぜ」

「えっ」

 

「あと、名前で呼べと言っただろ。鬼一の師匠だが神々廻のじゃねえ」

「いや、いろいろ教えてもらってるじゃないですか。不可思議な出来事についての知識とか、」


「それが必要な仕事をしているからだ。特殊類希事件捜査課は、俺が長年『お願い』してやっとこさ警察が作ったんだから」

「そういう話、してましたね」



 

「そうだ。警察は俺をうまく使っているつもりだったんだろうが、ここで立場をわきまえてもらおう。

 神々廻が『うん』と言わねえなら、今後の仕事は受けない。書類を作るのは依頼者だ。特殊類希事件捜査課に作らせる気なら……俺は二人とも召し上げて二度と警察には戻さねえ。その後の依頼も受けねえよ」

「――それはどういう意味でしょうか」


「自分で考えろ。まさしくお前の仕事だ、警視総監秘書殿」

「……はい」



 秘書は渋々と言った様子で立ち上がり、白石に向かって一礼し部屋を出ていく。見送りに白狐がつき、男は鳥居に礼する事なく出て行った。


 ━━━━━━

 

 中庭に生えている雑草を引き抜き、神々廻は汗を拭う。今日は非番だったが、『陰陽師探偵の白石直人へ依頼をしたいが連絡が取れない』という警視総監秘書に呼び出され、秘密の園へ案内したのだ。


 突然訪問したにも関わらず、主である彼は甘い菓子を用意して歓迎してくれた。気まずい雰囲気の中で菓子を食したが、相変わらず不思議な味のするものだった。


 先日『相性が良くない人間は白石のタバコが痺れ薬になる』と言っていたが、神々廻と同じように煙の中にいた秘書は、最初から苦い顔をしていた。たびたび煙にむせて、帰路についた足は千鳥足だった。



 

 

「なあ鬼一、あれってどういう意味だと思う?」

「師匠の目的ですか」

 

「そう。あれはまるで、俺たちの課の扱いを改善しろって言ってるような、」

「その通りですよ。師匠はあなたのことを大変お気に召しています。あなたが(しもべ)になることを楽しみにされています」

 

「何でだ?俺だって、ただ仕事を頼んだだけなのに」

「お気に入りだからです。元々の家系のご縁もありましたし、特別に目をかけて下さっています」


「家系って、まさか……〝伊勢の巫女やってた〟っていう先祖と知り合いなわけないよな?」

「さあ、どうだと思います?ご先祖のお名前をお聞きになったらいかがですか」




 大きなゴミ袋に雑草を詰め込み、鬼一はさっさといなくなってしまう。すぐ傍で黙々と雑草を除去していた白石は、着物の襷掛けを外して鮮やかな笑みを浮かべた。

 目下の人に雑用を頼んでも、自分が楽をする訳でもなく――彼は共に作業していたのだ。不本意にも好感を抱かされる所作だった。


 

 

「そろそろ休憩しようぜ、疲れただろ?さっきの秘書が持ってきた、高級な茶が浄化できた頃だ」

「じょうか、ですか?」

 

「人間が持ってきたものは、大体が(けが)れてる。

 俺に()()()()()()()()()として買った土産は、持参者の黒い意図を吸って害をなす。物自体に罪はねえし、台湾のお茶は美味いぞ。フルーツの砂糖漬けを溶かして飲むと絶品だ」

「へぇー、てか……何スかそれ、美味そう……」


「柚子の時期が終わるから、大量に作った。砂糖をまぶして乾燥させたドライフルーツだよ。

 気に入ったら土産にくれてやる。他にもあるから、見てみるか?」

「あ、あざっす……」



 


 柔らかく笑んだ白石は、神々廻に手を差し伸べる。

 まるで、猫又事件で真相を知っていながら、結末を『()()()()に持って行こうとはしなかった人』とは思えない。

秘書への冷たい態度も、まるで別人だったかのように思える。

 

 地位の高い人間を無碍に扱う高飛車な(なり)は影をひそめて、ただの旧友を見るような目だ。むず痒い気持ちになりつつ、彼はその手を取った。


 

 白石の眼差しは、神々廻にとっては昔々に失われたものだった。


 懐かしいあたたかさを胸の中に感じながら、彼は複雑な気分で綺麗になった庭を見渡した。


 

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