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陰陽師探偵『白石直人』  作者: 只深
case2:桜田門の異変

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14/24

case2-6 掌中の陰謀

「警視総監にご挨拶申し上げます。この度、警察庁長官秘書室に異動となりました。今後ともよろしくお願い申し上げます」

「…………」


「そんなに驚くかね?見知った顔があって安心しただろう。――あぁ、喋れないのだったな」

「……こくり」


「君は外してくれるか。義親子(おやこ)の話があるのでね」

「かしこまりました、失礼致します」



 一礼し、退室して行った彼は……昨日まで警視総監の筆頭秘書だった。多少頭が硬いところはあるものの、今の秘書たちよりは使える人員だったのに。

 

 向かい合った義理の父から目を逸らし、警視総監は眉根を寄せる。

またもや自分が育てた人材を横取りされたのだ。義父のよくない癖のひとつは、義息子から様々なものを取り上げる事だった。





「さて。仮にも君とは親子なのだから、腹の内を明かそうじゃないか」

(はい)


「あぁ、うまくなったな。本心をきちんと隠している。私が教えた念通話は上達しているようだ……狐に憑かれたのは、まだ未熟な証だけれども」

(申し訳ありません)


「私に謝られてもね、意味がないんだよ。警視総監が狐憑きなどという失態を二度と犯さぬように。

 で、陰陽師探偵『白石直人』は動いたかね」

(はい。本日現場検証に行っています)


特殊類希事件捜査課(るいき)と共にだろう、そこをなぜ省いた?私に叱責されるとわかっていたからだなぁ?」

(……はい)




 目の前で足を組み、長い足を自慢げに揺らしている男。彼は自分の肩についた金桜をつつく。警視総監は四つ、警察庁長官は五つ、階級頂点の証を載せている。

 警察庁長官とは警視総監の上位である。彼こそが警察と名のつくすべての最高権力者で間違いないが、たびたびこうして面会相手に自分の地位を確認させる……これも悪癖だ。


 念通話のチャンネルを切り替え、義息子は義父に悟られぬよう毒付いた。


【(どうしてこの人はいつまでも権力を誇示するのだろう。まるで、椅子の座り心地を確かめるかのように)】



 

 彼の文句はつらつらと続いたが、様々なしがらみを抱えてのしあがった長官とて『娘が一目惚れした』と求めた男に由来のない座を与えたのだ。結局のところ根本はただの親バカなのだと思い、溜飲を下げた。


 意味深な笑みを浮かべた義父はテーブル上の〝飾り〟を摘み、膝の上に乗せる。片付けておけば良かった、とその瞬間後悔したが、後の祭りである。 

 

「――娘と近頃連絡が取れないが、構ってやっているのか?」

(は……?あ、はい。夫婦仲は円満です。携帯をいじると目が痛くなると言って、遠ざけているのが原因かと)

 

「それならいいが。私としても、君をここまで無理やり引き上げたのだから守ってやりたい。しかしながら、優秀な場面が見られず悩んでいるよ。その上夫婦仲が悪いとなれば……ねぇ?」

(申し訳ありません)

 

「謝罪は聞き飽きた。自らその地位を守れるようになりたまえ。さて、本題と行こう。私も暇ではないのでね」




 一際鋭い眼光が放たれ、警察庁長官としての顔つきになった彼は、手にした()()()()を指先で弄び警視総監に目線を向ける。

彼の背後に浮かんだ黒い影を感じ、睨まれた側には冷汗が浮かんだ。彼自身はそうでなくとも、目の前の上官は陰陽術を得意としている。抱えた守護霊とやらが強力なのだと聞いていたが、何が憑いているのかはわからないままだった。


  

「特殊類希事件捜査課の〝さくら〟として白石がついたのは本当か?」

 

(はい。彼らは『銀の警笛』と言っていますが。協力者になったのは本当です)

「は……古い名を使うか、しかも当時の陰陽寮での俗称を」


(管内では最初から『さくら』呼称でした。あくまでも『こちら側』の人間だと言いたくないようです)

「そういう事だ。あれをいかに扱うか、その手腕は君に問われる。上手く出来そうかね」


(そう、したいと思っていますが)

「思っているだけか?やれやれ……困ったものだ。早く()を手に入れて、屈服してやればいいだけだろう」

(あなたには、それが可能ですか)





 総監の思わぬ反撃に、長官は不快げな表情を浮かべる。

 できるわけのない絵空事を押し付けるのには、理由がある。陰陽術の修行を始めたばかりの警視総監よりも、警察庁長官を長く務めた彼がやらないのは……()()()()からだ。


「くだらない話はいい。なんという名だったか、類稀の課長がお気に召したらしいな」

(神々廻です。彼は元々白石と旧知の家門でした)


「ではそれを利用したまえ。とにかく、あいつらの思い通りにさせるな。数千年前に整えられたこの国の秩序は、変えるべきではない。

 仮に女神を失ったとしても、我らには『国護結界』が残される」

(そのシステム自体は、女神が左右するのでは?)



 

「国護結界はすでにその(たなどころ)を離れている。ちまちまと怪奇事件を解決させておけ。手間がかかるモノを任せれば、国家運営がどうのと言わなくなる」

(今まで通り、ですか?しかし、私は彼らが『特殊類希事件捜査課(るいき)』を欲しがった理由を知らされていません)


「全てを知りたいのなら、座を固めろ。今の君には国家機密を漏らせん」

(では、一つだけ。『神々廻が白石の後を継ぐ』とは一体どういう事なのですか?)


「使いにくいものは、使いやすいように変えるのが普通だな。一度壊れたものは、完全には直せない……そうだろう?」

(…………)


  

「左近家は正しく機能している。彼らが嘯く『正しい日本』とは今のままの世の中をいうのだ」

(彼もまた、元々はあちら側の人では)


「そう思うか」

(違うのですか?仲が良いようですけれど。類稀を軽く扱った、ウチの筆頭秘書を飛ばしたのは左近の息子です。義父上が欲しがったのでしたら、意のままなのかもしれませんが)


「……無駄話はここまでだ。

 左近の息子には、日本中から事件をかき集め、害の強いものから差配するよう言ってある。大忙しのうちに神々廻は歳をとり、死ぬ。その時白石に初めて手が伸ばせるだろう。彼はとてもとても、仲間を大切にする。情の深い男だ」

(白石を亡き者にすることが目的ですか?)


「他に何がある?偉そうに神々を差配する『裁定者』などいらん。権力を握るのは、政を行う場であるべきだ」

(彼が死んで権力を握るのは、)


「それは当分知らなくて良い。君はまだ、仮の首なのだから」

(…………)




 満足げに立ち上がった警察庁長官は、弄んで壊した飾りを机に戻し、去っていく。

 机上で無惨な姿を晒したそれは、総監の大切な人を思い出させた。



(……すまない……君枝(きみえ)、トゥルース。お前達の無念を晴らすには、まだ時間がかかりそうだ) 

 彼は、奥歯を噛み締めて瞼を閉じた。


 瞼の裏に浮かぶのは、柔らかな笑みを浮かべている愛おしい人。そして、人生のほとんどを信頼で重ねた愛犬。


 あの日、あの時誓った全てはまだ芽吹かない。今がその時ではないのだから。


 そう呟いて彼は目眩を覚えた。冷や汗が吹き出し手足の先が痺れだす。



 

(――瘴気が、抑えきれない)

 

 手のひらから溢れた黒い霧。それは炎が燃えるようにゆらゆらと立ち上がる。

計画はまだ始まったばかりだと言うのに、どうしてこんな目に――

 そう思った瞬間に、気を絶した。

 

 



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