神話パート 一: 崩壊の目撃者.
*―封印された古文書館、神話保管者のアーカイブより発見―*
これらの断片は、元の鉛の筒から回収され、古代の順序に従って照合、翻訳、配列された。以下に記すは、我々の世界の創世記である。時の流れにその名を失った、最初の保管者によって記録されたものだ。
かく記される。かく、常に在りしこと。
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時が時でなかった頃、虚空と、万物の可能性だけが存在していたその時代、二つの存在が、虚無の上で手を重ねた。
**ザハルス**、神々の王。
**ヘオベ**、神々の女王。
彼らの結合は、肉のそれではなかった。意志と、本質と、存在そのものへと至る原初の力の、結合であった。
彼らの共有した息吹から、風が生まれた。
彼らの汗から、谷が削られた。
創造の恍惚の中で零れた彼らの髪は、生まれたばかりの大地を覆う草となった。
祝福された雫となって落ちた彼らの唾液は、膨れ上がり、神々の口の記憶を今なお歌う、大河と海となった。
山と海と空を生んだ光の閃光の中で、別の何かが生まれた。
形作られたのではない。
創造されたのではない。
言葉によって存在へと招かれたのではない。
**生まれた**のだ。
神々の創造の、生々しく、白熱したエネルギーから、一つの意識が火を点けた。
神々は、この予期せぬ子を、見つめた。彼は、彼らのどちらでもなかったが、両方の本質を宿していた。その姿は光であった。その瞳は、創造以前の虚空の記憶を宿していた。彼が語るとき、その声は、これから存在するであろうあらゆる音の残響を運んだ。
**「汝は何者だ?」**
ザハルスが問うた。
その存在は、問いを吟味した。
**「私は、二つの無限が邂逅する時に生まれるもの。私は、その間の均衡。私は、目撃者」**
創造の労苦でなお震えるヘオベは、警戒した目で彼を観察した。
**「あなたの存在など、決して計画していなかった」**
**「ええ」**
その存在は、同意した。
**「しかし、私は、目的のために生まれた」**
神々は、沈黙の中で会議を開いた。言葉以前の言語で。彼らが再び向き直った時、その決断は下されていた。
**「汝は、隠された者となる」**
ザハルスが、布告した。
**「間の領域で見張る者だ。汝の使命は均衡。元素や力の均衡だけではない。**我々**の均衡だ。神々自身の。汝は、宇宙を、見えず、知られずに動き、いかなる神も、いかに強大であろうとも、秤を傾けすぎぬよう、見届けるのだ」**
**「そして、そのために」**
ヘオベが、付け加えた。
**「汝に、全領域、全次元、全時空を移動する力を授ける。汝に閉ざされた扉はなく、汝に隠された秘密はない。汝は、神々を抑制する、見えざる手となるのだ」**
その存在は、頭を下げた。
**「そして、私が通り過ぎるのを垣間見た人間は、私を何と呼ぶのですか?」**
ザハルスは、微笑んだ――稀有なことだった。
**「多くの名で呼ばれるだろう。歌を形作る者。運命を織り成す者。星明と影の主。しかし、最も根付き、人々が焚き火の周りや、おとぎ話の中で囁くであろう名は、これだ。――**妖精王**」**
かくして、妖精王は生まれた。意図的な創造ではなく、神々の偶発的な産物として。神でもなく、人間でもなく、その間の何かとして。片足をあらゆる領域に置き、均衡そのもの以外に、何の忠誠も誓わない、宇宙的存在として。
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ザハルスとヘオベは、水に息子を与えた。**ヴェセラーネ**。海の守護者。
永きにわたり、ヴェセラーネは深き静寂の中で泳ぎ、その支配域に満足していた。しかし、孤独は重くのしかかり、退屈が彼の広大で、液体の心臓に忍び込んだ。彼は水面に浮上し、父に語りかけた。
**「水は私のものですが、空虚です。私に、それを満たす生き物を与えてください。私の名を知り、その主に崇拝を捧げる、生きたものを」**
ザハルスは、その知恵をもって、息子の目の奥の飢えを見た。彼は原初の深みに手を入れ、最初の魚たち、海底を這う最初のものたち、そして波を割る最初の巨獣たちを、形作った。ヴェセラーネは喜んだ。彼らは彼を知り、その栄光の中で泳いだからだ。
しかし、ザハルスは、創造という行為の味を思い知り、止められなくなった。彼は大地に向き、その上を歩く獣たちを形作った。大いなる群れを。孤独な狩人たちを。空を彩る鳥たちを。そして、彼は彼らに命じた。**「我を崇めよ。我は汝らの創造主である」と。**
これらの生き物たちの造形から、端材が残った。獣にも魚にもなりきれなかった余剰物質は、投げ捨てられた。それが落ちた場所は、山となって積み上がった。それが散った場所は、丘となって隆起した。創造の不完全な残滓は、大地の骨格となった。
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そして、闇が訪れた。
ヘオベは、二人目の子を宿し、重くなっていた。存在を形作るという重荷が、彼女にのしかかっていた。均衡を超えて押し出された創造の力は、彼女の中で揮発性を増していた。彼女から漏れ出たのは、単なる病ではなかった。均衡の**破綻**だった……彼女の腐敗が大地に触れた場所は、爛れた。その爛れから、最初の邪悪な存在たちが這い出た。創造の意志からではなく、負のエネルギーから。神々の廃棄物に、悪意ある形が与えられて生まれたのだ。
これらは、**アー・グール**。最初の汚染された者たち。
彼らは、混沌以外の目的を知らず、破壊以外の喜びを知らなかった。彼らは、地に広がり、神々の業を汚し、ザハルスが造った生き物たちを蝕み、人間たちの領域に恐怖をもたらした。
ザハルスは、その腐敗を見て、激怒した。彼は、創造の中心から、最も純粋な正のエネルギーを集め、それを人間たちの真の姿へと形作った。彼は彼らに、一つの命令を与えた。**「浄化せよ」** と。
かくして、**第一次大戦**が始まった。
人間たちは、その正義において、そびえ立ち、恐るべきものであり、ヘオベの病の落し子たちに対して進軍した。大地は、彼らの戦いで震えた。山々は砕け、海は沸騰した。数え切れぬ時代の間、戦争は激闘を極め、ついに神々自らが降り立ち、彼らの創造物を助けた時、邪悪は打ち砕かれた。
しかし、それは、破壊することはできなかった。ひとたび生まれた邪悪は、死ぬことはない――ただ、封じ込められるのみである。
ザハルスは、手を開き、語ってはならぬ名を口にした。**“ツィネブロシャーク”**。その虚無へと、世界の構造の彼方にある、その牢獄の領域へと、邪悪は投げ込まれた。そこに、彼らは留まる。神々自らが刻んだ封印に縛られ、彼らがこよなく愛する闇の中での永遠の住まいを、与えられて。
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邪悪がその牢獄の領域へと投げ込まれてから数世紀後、破断が生じた。封印の、亀裂。世界と世界の壁の、一瞬の弱さ。その亀裂を通って、何かが滑り出た。
**アー・グール**。
最初の汚染された者。
ヘオベの病から生まれた、最初の邪悪なる存在。あらゆる腐敗の祖。それは、束縛を生き延びていた。それは、待っていた。そして今、それは、自由になった。
アー・グールは、自らを宣言しなかった。軍勢と火と共に進軍しなかった。それは、**広がった**――染みのように。病のように。囁きが叫びとなるように。それは、精神に感染し、魂を蝕み、その通過に際して、現実の構造そのものを捻じ曲げた。数十年のうちに、それは世界に根を下ろし、世界は内側から腐り始めた。
神々は、見た。神々は、震えた。
しかし、アー・グールは、彼らのうちの一人だった。ヘオベの病から生まれ、彼ら自身の本質と結びついていた。彼らは、自分たちの一部を破壊せずには、それを破壊することはできなかった。
ザハルスは、妖精王を召喚した。
**「汝は、我らの結合から生まれた。汝は、我らの本質を宿すが、我らの限界には縛られない。アー・グールは、我らの影。我らの恥辱。我らの失敗が形を得たものだ。我らは、それを終わらせることはできない。しかし、汝ならば、それ*ができる者*を見つけられるかもしれない」**
妖精王は、神々の評議会の光の中に立った。その星の瞳は、かつて弱さを認めたことのなかった神々の顔を、映していた。
**「探せ」**
ザハルスが、命じた。
**「宇宙を、領域を、次元を、時系列を探せ。創造の火花を宿す魂を見つけよ。純粋で、希釈されていない、作るものと壊すものの力。心がそれほどまでに強靭で、それほどまでに善く、決して蝕まれない者を見つけよ。**創造者**を見つけ、ここへ、この世界へ連れて来い。アー・グールと対峙させ、ついに終わらせるのだ」**
妖精王は、頭を下げた。
**「私は、始まりから、汝らの間を、見えずに歩んできた。私は、見てきた。私は、待ってきた。今、その理由がわかった」**
彼は、向きを変え、彼だけに存在する扉を通り、世界と世界の間の広大さへと、歩み入った。
そして、彼は、探求を始めた。
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邪悪が封印された後の時代、ザハルスは、自らの創造物たちの中を歩いた。彼は、人間たちの領域を訪れ、彼らの石造りの大広間で、彼らと共に座した。彼は、彼らに何が必要か尋ねた。人間たちは、沈黙で答えた。彼らは、何も欲さなかった。彼らは、完全だった。
しかし、彼らのもてなしから、最初の、より小さき創造物たちが生まれた。人間たちは、その崇敬において、ザハルスに、自らの食卓からの食物を捧げた。彼らの巨大な身体を維持する、アンブロシアの物質。ザハルスは、それを受け入れ、彼が天界へと戻った時、端材が残っていることに気づいた。人間のもてなしと、神の存在の本質を帯びた、余剰物質。
これらの端材から、ザハルスは、**デレイア**を形作った。彼女は、人間たちと比べれば、小さかった。繊細で、機敏で、その指は、小麦を吹く風のように動いた。ザハルスは、彼女を見て、目的を見出した。
**「汝は、収穫を司る」**
彼は、彼女に言った。
**「畑を守り、種まきを祝福し、大地を耕す者たちを、飢餓が奪わぬようにせよ。これが、汝の責務であり、喜びである」**
デレイアは、頭を下げた。そして、彼女の感謝の涙が落ちた場所に、最初の穀物が芽吹いた。
しかし、ザハルスも、その知恵の全てをもってしても、心の引力には抗えなかった。
人間たちの娘の中に、その美しさが夜明けに匹敵する者がいた。**アウレリア**。その肌は、鍛冶場の温もりを宿し、その瞳は、死に行く星の光で燃えていた。ザハルスは、彼女を見て、愛した。彼らの結合から、息子が生まれた。**ディアバクルス**。
しばらくの間、その子は隠された。ザハルスは、密かにアウレリアを訪れ、息子が成長するのを見守り、創造と火の道を教えた。しかし、秘密は、神々の女王から、永遠に隠し通せるものではない。
ヘオベは、真実を暴き、その怒りは、恐るべきものであった。
彼女は、激怒しなかった。彼女は、泣かなかった。彼女は、微笑んだ。世界と世界の間の虚空よりも冷たい微笑みを。そして、彼女は、ディアバクルスを、玉座の前に召喚した。
**「汝は、我が夫と、他者の息子。存在するに値することを、証明せよ。汝に、一つの課題を与える。死に行く星を鍛え、何か、唯一無二のものを創り出せ。あらゆる領域で、かつて見られたことのないものを。期限は、百日。失敗すれば、汝は、永遠の劫火に投げ込まれ、全ての時の果てまで、燃え続ける」**
若く、未熟なディアバクルスは、その課題を受け入れた。他に、何ができようか?
九十九日間、彼は、労働した。彼は、死に行く太陽の中心に飛び込み、崩壊する物質を、己の素手で形作った。父から教わった、あらゆる教訓を呼び起こした。しかし、その課題は、不可能だった。ヘオベによって、不可能にように仕組まれていた。星は、従わなかった。唯一無二の形は、現れなかった。
百日目、裁きの炎が彼を呑み込まんと立ち昇る中、アウレリアが、神々の玉座の前に現れた。
彼女は、嘆かなかった。彼女は、懇願しなかった。彼女は、ザハルスとヘオベの前に立った。その人間の体躯は、静かで、恐るべき尊厳を放っていた。
**「代わりに、私を。永遠の劫火に燃える、身を捧げます。私の子を、お助けください」**
ヘオベは、彼女を見つめた。欺瞞を予期して。しかし、アウレリアの瞳は、ただ愛だけを宿していた。母が子を思う、純粋で、不屈の愛。それは、神々よりも古く、創造そのものよりも古い力であった。
ヘオベの冷たい心臓に、何かが動いた。おそらく、彼女は、自分が産んだ子たちを思い出したのだろう。おそらく、彼女は、自身が敵わない力だと、ただ認識しただけなのかもしれない。
**「立て。汝の子は、赦された」**
このやり取りを見ていたザハルスは、自身の心臓が動かされるのを感じた。彼は、ディアバクルスを見た。我が愛の子。母の犠牲によって救われた者。そして、新たな目的を見出した。
**「汝は、冥界の守護者となる。汝は、旅立つ魂を導き、彼らを安息へと導き、生と死の境界が、破られぬままであることを、見届けるのだ。そして、汝の母が、汝の代わりに燃えているゆえに、汝は、彼女を訪れることを許そう。時に応じて。愛の代償と、犠牲の贈り物を、忘れぬために」**
ディアバクルスは、頭を下げた。冥界の影が、彼を迎えに立ち上がった。
しかし、冥界には、それ自身の管理者が必要だった。その門に立つ存在が。ザハルスは、**ネプルベウス**を形作った。星と星の間の沈黙から。光が存在する以前の闇から。そして、時代を待つ石の忍耐から。
ネプルベウスは、何も問わなかった。彼は、ただ門に立ち、今もそこに立っている。
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そして、ザハルスは、**エニンシガル**を創造した。純粋なエネルギーから。世界と世界の間を流れる、生の、未形成の可能性から。彼には、より微妙な領域が与えられた。魔法的エネルギーそのものの流れ。
**「それを見守れ」**
ザハルスは、命じた。
**「その満ち引きを司れ。それを、純粋に、蝕まれずに、賢明にそれを使おうとする者たちが利用できる状態に保て」**
エニンシガルは、頭を下げ、その任に就いた。見えず、永遠に。力の羊飼いとして。
しかし、監視者は、監視されうる。守護者も、堕ちうる。




