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天国に登る

 俺、ボロ、ザラナドの3人は川のそばの平地に下りていた。川の周りは浅いがけのようになっていてばれにくい。

「さて…この服は汚さないようにしないとな…」

 俺は前着ていた服を畳んでいた。

「後は天国の連中が見学に来るのを待つだけだな…」

 ザラナドは疲れたのか横になった。

「2日後だそうだ」

「本当か?」

 ボロの言葉にザラナドが飛び起きた。

「ついでに電話で聞いておいた、間違いない」

「じゃあ…2日後…には…天国?」

 俺は喜びで口が回らなかった。

「そういうことだ!うまくいけば…」

 ボロも、ザラナドも笑顔だった。

 

 夜、俺は目を覚ました。

(川の音がうるさいんだよなあ…)

「起きたのか?」

「ザラナドさんも」

「眠れなくてな…もうすぐ天国だと思うとな…」

「楽しみだな」

「そうか…俺は…天国に行っていいのか…迷っている」

「ここにいても償いにはならないって言ってたろう?」

「ああ、それは今でも思っている。だが、…天国には、銀行に強盗に入ったときに、巻き込んでしまった人がいるかもしれない…何を言えばいいのかと思ってな…」

「…顔を合わさないように…いや、謝ればいいんじゃないか?ある意味ザラナドさんのおかげで天国に行ったんだから…すんなり許してもらえるかも…」

「はははっ…俺のおかけで…か…」

 笑った後、また暗めの顔に戻った。

「…なんで、銀行強盗を…?後悔してるようだし、悪い人には見えない」

「……悪人だ。ただ金が欲しくて、銀行にマシンガンを持って入ったんだからな…。後悔してからでは遅い…。地道に働いていれば…天国で妻と一緒にいられた…」

「失敗してここに来たのか?」

「いや、強盗は成功した。出会ったのはその後だから妻は知らない…。俺が死んだのは病気だ」

「会えるといいな…」

「ああ…会ったら、何もかも話す…」


 2日後、俺達3人は服を着替えてエレベーターに向かっていた。

「もう来ているようだな…」

 ボロに言われて見てみると、100人ほどが悪魔の説明を受けているらしかった。

(きれいな服装だ…顔も清潔だ…。服は手に入ったけど風呂には入ってないからな…)

 そっと体の臭いを嗅いでみる。

(やっぱり、臭うな…)

 集団のそばにある岩の裏に隠れる。

「移動を始めたら最後尾につこう…」

 ボロが小声を出し、俺達は頷く。案内しているらしい悪魔がエレベーターの部屋への入り口周辺にいた人達を引き連れて移動し始め、俺達はそっと最後尾についた。向かった先は岩運びをしている現場だったが、幸い俺達のいたグループではなかった。

「ごーらんくださーい…あのように、岩を運んで往復するんでーす。さあ、地獄のみなさーん!張り切って運んでくださいねー」

 6人が俺達がやっていたのと同じように岩を運んでいた。そのうちの1人が足を滑らせ、どたりと倒れこんだ。

「あのよーうにさぼると、痛ーいお仕置きが待ってまーす」

 そばにいた悪魔がにやにやしながら、ムチ役の男に促し、男がムチを振り上げる。倒れこんだ方は鼻水を垂らし、泣きべそをかいていた。

アハハハ…

(!)

 誰かが笑い出し、笑いが広がっていった。

(こいつら…。滑稽だよな…でも、天国行ったんだろお前ら?人の痛みを分かれよ)

 もちろん全員が笑っていたわけではなく、半分ほどは悲しそうな顔をしていたり、釈然としない顔をしていた。


 30分ほど、地獄巡りが続いた。あの生き物の体内のようなところには行かなかった。岩運びの他には牢屋くらいで、広いだけで大して見るものもないらしかった。

(俺の知ってる場所がほとんど全てで、あとは同じようなところばかりだったんだな…)

「さーてみなさんお疲れ様でしたー。これで今回の階層2ツアーは終了になりまーす」

 笑顔で悪魔が案内した。

(さて…ここからだ…)

「では、みなさま、エレベーターの方へどうぞ」

 白いローブをまとった女性が集団の先頭に出た。

(地獄にいるのが悪魔だから、天使か?)

 女性は集団を率いて歩き始めた。エレベーターの部屋のドアが開く。青い服の男がエレベーターの前に立っていた。

「みなさん、チケットを確認致します」

(やべ)

 ボロが俺とザラナドの耳元でささやく。

「マツシタ、ザラナド、手のひらをあの係員に見せるんだ。それで通れるように伝えてある」

 周りの人が不審に思わないように、自然になるように歩いて、堂々と手のひらを見せる。

「はい、どうぞ」

 青い服も自然に通してくれた。エレベーターに乗る。今度は空いている。

「なんだか、血の臭いがしない?」

 俺の隣にいる女性が、旦那らしき人に話しかけた。

(うっ…)

「地獄の臭いが体に染み付いてしまったんだろう」

「汚らわしい…」

 女性は顔をしかめた。

(助かった……。…天国…か…。行っていいのか…?神様とかに見つかったりとかしないよな…)

ゴウン…

 エレベーターが止まり、ドアが開いて白い部屋に出た。天使がエレベーターの部屋のドアを開ける。

「う…」

 飛び込んできた光が目にしみた。

(白い…透明だ…。もう赤い世界じゃないんだ…)

 外に出た。風が体に当たり、土の、木の香りがした。水の音が聞こえる。見上げると青い空がある。鳥が飛んでいる。

(凄い…。見慣れた光景のはずだったのにな…。まともな…世界に来たんだ…)

「……では、みなさま、お疲れ様でございました」

 天国の空気を味わっている間に天使がツアーを締めくくっていたらしい。集団は解散してぞろぞろと散っていった。

「マツシタ、ザラナド、こっちだ…」

 言われるまま、ボロについて行く。公園の真ん中を通っていく。ブロック状に刈り込まれた木、きれいに整えられた芝生、噴水と人工的な川を見ながら進んでいき、近くの白いタワー型のマンションのような建物に入っていく。

「ボロさん…どこに進んでるんだ?」

 黙って歩いているボロに話しかけてみる。

「君達がここで住めるようにしないとならない。手配してあるはずだ…」

 エレベーターに乗り、最上階まで進む。エレベーターからは天国の風景を見ることができた。

「…現代的だな…」

 俺と同じようにきょろきょろしながら、ザラナドが口を開いた。

「ああ、もっと…原始的かと思ってた…」

 目の前に広がっている光景は、緑の多い大都会といった様子だった。

(なんだか…死んだこと自体が無かったような気がしてくるな…)

「降りるぞ…」

 ボロに言われて、俺とザラナドは我に返った。角の部屋に進み、ドアが開いた。

「やあ、久しぶりだね…私の名前はニト。さあ、入ってくれ」

 俺に紙を渡した警備員がいた。テーブルに案内され、カップに紅茶を注いでくれ、焼きたてのクッキーを振舞ってくれた。

「…どうして、俺に紙を渡してくれたんだ?」

「…正直なところを言うと、凶悪犯でなければ誰でも良いと思ってたんだ…。悪いね」

「いや、おかげで天国にこれた。ここで暮らしていいんだろ?」

「ああ、もちろんだ。住む場所も、学校も用意してある」

「学校ね…」

 苦笑した。

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