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強盗

きききききー!

「うわっ!うるせえ!」

 突然黒板を爪で引っかく音を巨大にしたような音が響き渡った。

「隠れるんだ!」

 ボロに引っ張られて血の臭いの川へと降りて様子を伺う。

「万一のときは…川に飛び込むんだ」

「まじかよ…」

タタタタタタ

 地面を蹴る音が聞こえた。俺もボロも息を潜め、足の先を赤い川につける。

「マツシター!ボロ!助けてくれ!」

「ザラナドの声…」

 動こうとした俺の肩をボロがつかむ。

「動くな…」

「助けてくれええええ!マツシタ!ボロ!」

 ザラナドは叫び続けている。

「…このまま叫び続けられても困るな」

 ボロは岩を登り、手を振って合図する。ザラナドが走ってきて、川岸まで降りてきた。

「ここにいたのか」

「…悪魔には見られてないな?」

 ボロはやや面倒そうに聞く。

「ああ、それは大丈夫だ」

「何があったんだ?」

 次は俺が聞く。

「逃げてきた。悪魔に追われているが、どうにか振り切ったはずだ…。お前らはどうやってすんなり逃げたんだ?」

「悪魔の隙をうかがって逃げただけだ。はでに走らず。すーっと歩いてね…」

 ボロはひょうひょうとした顔で答えた。

(深く聞かれても同じことしか言わない気なんだろうな…相手が疑っていても諦めるまで)

「俺は悪魔に追われている。お前ら2人を土産に帰って罪を軽くできるかもな」

(…困るな…最悪、階層4行きになる)

「分かった…話そう」

 ボロは、今度は真剣な顔になった。


 ボロは嘘をつかず、これまでの経緯を全て説明した。

「…この階層から出られずに困っているところだ」

「なるほどな…。…天国に行く方法があるかもしれないぞ」

 ザラナドはまだ半信半疑らしかったが、話に乗ってくれた。

「…どんな方法だ?」

「天国の人間がここを見学に来ることがある。うまくそれに紛れればいい」

「いつだ?」

「100日ほどに1度、そろそろあるはずだ」

「そうか…だが、この格好では難しそうだな…どこかで服を探してシャワーでも浴びないとな…」

 ボロに言われて、それぞれが自分の服装を見た。現世を離れた日から着の身着のまま、地獄での労働で汗にまみれ、俺とボロはさらに血の臭いの川を渡って唾液の臭いのする場所に行ってきたばかりだ。

(自分達でもひどい臭いと思うくらいだ…ここ以外にいる人が嗅いだらもっとだろう…)

「服が手に入ったら見た目はまともになるから、何とかごまかせないか?」

 ちょっとだけ閃いた。

「服のあてがあるのか?」

 ボロは俺を見た。

「ここに来たばかりのやつの服ならまだましだろ?」

「確かに…卸したての服や洗濯機やシャワーは望めないしな」

 ボロは賛成らしい。

「…」

 ザラナドは黙っていた。

「あなたは?」

 ボロが確認する。

「…分かった」

 しばらく考え込んでから承諾した。ザラナドは黙ってしまったので、俺がボロと会話する。

「…どうやって悪魔にばれないように人を連れてくるか…」

「…また紙を渡してもらう…」

「じゃあ、あとはエレベーターに入らないとな…前にみたいに朝の移動時間でいけるか?」

「前よりは厳しくなるだろうが…行けるだろう」

「…ザラナドさん?」

 黙ってしまっているザラナドに話しかけてみる。

「あ、ああ…大丈夫だ」


 次の日。俺とボロがエレベーターに向かうことにし、昨日脱走したばかりのザラナドは川のところで待機することにした。

「よし…みんな牢屋から出始めたな…」

 目を細めて牢屋を観察していたボロが声を出した。

「行こう…」

(自然に…ばれないように…)

 今回はボロが走らずゆっくり歩いているので、俺もそれにならう。悪魔の近くを通るとき、ボロは汗をぬぐうふりをして顔を隠した。俺もそれにならって汗をぬぐったり、顔をかいてみたりした。しばらくして、エレベーターが見えてきた。

「今だ…」

 そう呟いてボロが走り出したので、俺も走り、前回のように座り込んでいる悪魔もおらず、あっさり塔のドアを開けて中に入った。ボロはすぐに受話器を取って電話をかけ始めた。

「電話番号は変わったりしないよな?」

「ああ…それは塔に入るパスワードと違って変更がないからな…」

「ああ、私だ。成り行きで新しく人を加えることになった。…いや、調べる必要はない。それより、また紙を渡してほしい…内容は、…」

(貸しがあるって言ってたけど…。あの警備員の人ってずいぶんボロに恩があるんだな…何でも協力してくれるって感じがするなあ…)

「よし…ちょうど今日にここに人を送る予定があったそうだ…うまくいけば今日手に入る…」

「…うまく、奪わないとな…」

「罪悪感があるか?」

 俺の顔から心情を悟ったのか、ボロはやや皮肉の篭った笑い顔と声だった。

(…地獄に落ちるくらいのことをしていながら…盗みぐらいなんだってか…)

「…人を直接傷つけたわけじゃないからな…」

「…そうか、すまなかった」

(…心からの謝りには見えないな…)

「いや、いいんだ。結局地獄にいるんだからな…。さっさと戻ろう…」

「ああ…」


「ザラナド、戻ったぞ」

 ボロが明るく話しかける。

「ああ…」

 ザラナドはまだ暗い表情だった。

「うまくいけば今日中に紙を渡された人が来る」

「俺も行く…」

「いや、君は昨日脱走したばかりだから」

「2人だって悪魔に見つかったらまずいのは同じだろう?俺は現世で」

「強盗でもしたのか?」

 つい言ってしまった。ボロは俺の方を向いて顔をしかめた。

「…そうだ……。今、地獄から出るために、同じ罪を犯すと思うとな…」

 苦笑していた。

「……作戦はどうなんだ?」

 2人とも黙ってから訪ねてみる。

「簡単だ。連れてこられた人達に私が手を振るだけだ。それで走って来てもらえる。後は服を盗んで、自分達の服を渡すだけだ…」

「その人達は戻ったら…悪魔に捕まる…いや…かまってる場合じゃない…か…」

 俺は話している最中に、ボロもザラナドも気づいていることにいまさら気づいた。


 数時間後。

「そろそろ行こう」

 ボロの言葉に俺とザラナドが頷く。

 川のところから出発し、またエレベーターのところまで歩いていく。悪魔がエレベーター付近に集まっているためか、簡単に移動できた。

「集まってるな…」

 何十匹かの悪魔がエレベーターから出てきた何百人を取り囲んでいる光景が見えてきた。

「これ以上近づくと見つかるな…」

 岩の後ろに隠れる。

「いくぞ…」

 3人は岩の後ろからそっと顔をだして、ボロが手を出して振った。

「……あれか?」

 ザラナドの指差す方向を見ると、こちらを向いておどおどしている3人がいた。

「走って来い…ここだ…」

 ボロはささやくような音量で、祈るような声を出す。

「…来た」

 おどおどしていた3人がこちらに全力で走ってきた。

「おーい…。逃げるなよー!」

 悪魔の声も聞こえてきた。

「助けてくれ!!」

 走ってくる3人のうち1人が叫んだ。俺達3人で岩の近くで3人をつかんで岩の後ろに引っ張り込む。

「よく来てくれた」

 ボロはにこやかに迎えた。

「助けて、助けてくれ…」

 どうやら3人は悪魔の魔法で何も認識できないらしい。

「急ごう」

 ザラナドは暗い表情ながら、手早く1人の服を剥ぎ取る。俺とボロも急いだ。


「なーんでお前ら素っ裸なんだあ?」

 俺達3人は平然と歩きながら、後ろで悪魔の声を聞いた。

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