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階層2・エリア2

 俺とボロはエレベーターから北に向かって歩いていた。

「ふう…。足速いなボロさん…」

「檻から出たと言っても悪魔がいる。いつまでもここにいたら悪魔が階層4に行ってないことに気づいてしまう」

 蒸し暑く、汗が頬や鼻を伝わって垂れていく。牢屋にいたころから水は天井から滴り落ちてくるのを飲むくらいで、脱出する前から喉は渇ききっていた。

「どこかで水は手に入らないのか?」

「見当たらないな…今は早く北に行くことだ。悪魔が不審に思わないうちにな」

「ボロさんは喉渇かないのか?」

「渇いても死にはしないさ、生きてないからな」

「ハッ…」

ざー…

 水の流れる音が聞こえてきた。

「これが血の臭いの元か…」

 俺の目の前には真っ赤な川が流れていて、流れていく先は小さな滝になっていた。

「気色悪いな…誰かが流したものでないことを願おう」

 ボロはあたりを見渡した。

「橋は無さそうだ。川を渡るしかないか…」

 ボロに言われて、赤い岩をつかんで降りていき、水面の目の前に来る。血の臭いは更に増した。

(飲めるわけないな…)

 腰あたりまで川に浸かって、対岸に向かう。川底も流れているものもぬるぬるして気持ちが悪かった。

ざば…

(最悪だ…)

 川から上がると、服は血まみれになっていた。足に滴り落ちてきて岩に足をかけて登るときに滑って面倒だった。

「うっ…」

 登りきって地面に足を降ろすと、今までの硬い地面から一変して柔らかく、水気を含んでいた。あたりは更に湿っぽく、天井からは唾液のような臭いの液体が垂れてきていて、いたるところに水溜りができており、地面と壁はピンク色でところどころ血管のような青い管が走っていて、今まで広大な場所を進んできたのが路地のように狭くなった。

「何だここ…」

「…階層2の地獄はいろんなエリアに分かれていると聞いた…気をつけて進もう…」

 ボロの顔は険しくなった。

「見つかったら、また牢屋送りか」

「それどころか、階層4送りをうまく取り消せなければ最悪、4に行く可能性もある…」

「おいおい…」

「進もう…。壁に注意するんだ…目玉が出てきたら伏せるんだ」

(目玉?)

 具体的に想像できないまま進んでいく。歩くたびに靴に液体がしみてきて、さらに湿気と蒸し暑さと臭いで気持ち悪い。

ドン!どちゃ

「何だよ!?」

 突然ボロに突き飛ばされ、臭い水溜りにしりもちをついてしまった。

(うわあ…)

 ボロの視線の先を見てみると、壁には黄色い楕円の中心に濃い緑の瞳があり、きょろきょろと辺りを見渡していた。

「ボロさん…」

「静かに…」

 10秒ほどで目は閉じ、目があった部分はピンク色の壁に戻った。

「ふう…行こう」

 ボロはまた歩きだす。俺は目があった部分の壁が気になって触ってみた。

ぱちっ

「うわ!」

 壁の目が開いた。

「どうした?」

 ボロが走って戻ってくる。

グボッ

 壁から腕が2本現れて、俺の腕をつかむ。壁と同じピンクの腕から出てきている手には4本の指が生えていて、それぞれに黒く光った爪が付いていた。

「痛てえええ!」

 ボロは俺の胴をつかんで引っ張り、腕も俺を放そうとしない。

「おおお!!」

 両足を壁に立たせて踏ん張る。

どさっ

 腕から解放された。

「急げ!」

 ボロが走り出し、俺も後を追っていく。

ぐぐぐぐっ

 前方の1部分、地面が盛り上がり、天井が垂れ下がる、さらに左右の壁も出っ張ってきて塞がり始めた。

「閉じ込められる!」

 さらに速度を上げる。壁からも地面からも腕が出てきて、転ばせようとしてくるたびに、左右に体をそらせたり飛んだり跳ねたりしながら走る。

「だめだ、閉まる!」

「飛び込め!」

 ボロが塞がっていく壁の隙間に飛び込み、俺も飛び込む。

びしゃあっ びしゃあっ

 地面に頭からつっこみ、全身臭い液体まみれになった。

「ふう…」

 起き上がって後ろを振り返るとぴっちりと壁が閉まっていて、壁と変わらないくらいになっていた。

「風呂に入りてえな…」

「全くだ」

 汗まみれ、血まみれ、臭い液体まみれのボロも笑った。

 1時間くらい経ったころ、前方に地面から牙のようなものが何本か天井まで伸びて牢屋のような区画が見えてきた。

「どうやら、目的地に着いたようだな…」

「神に逆らった人か?」

 牢屋の隅に1人、ボロと同じくらいの年齢の男が座っていた。男はふらふらと顔を上げ、こちらを睨んできた。

「何のようだ…?」

「天国に行くためのエレベーターのパスワードを教えてくれ」

 男は俺の質問に笑った。

「変わりに何をしてくれる?」

「ここから出す」

 答えたのはボロだった。

「…どうやって出すというんだ?」

「…設計の仕事をしていたからな…。道具を集められれば檻を壊すことくらいはできるさ…」

「……天国に行くパスワードは分からないな…」

 男は俺の方を見て笑い、ボロの方に向き直った。

「その代わり…『神』の、側近から聞き出したパスワードの生成方法がある…教えよう…」

 男はボロになにやら面倒臭そうな数式を言葉で説明し始めた。ボロの方は時折頷きながら聞いていた。

(メモも取れないけど…ボロに任せて、俺はおぼえなくて大丈夫なんだよな?)

「…以上だ」

「まだ、中途だろう?」

 ボロは戸惑った顔をした。

「俺が分かったのはここまでだ。後は…どうにかしてくれ」

「そうか…道具が集まったら必ずここから出す」

「頼んだ…」

「行こう…」

 ボロが俺に促す。

「…その前に…神ってどんなやつなんだ?」

 男はしばらく黙ってから口を開く。

「天国、地獄…現世を創った存在だ…全てを自由に操れる人間も、動物も自然も…。だが、自分が創ったから、世界を自分のおもちゃだと思っている。力や頭脳はともかく…思想は幼稚な、怪物だ」

「…そういえば、名前は?」

「ケントだ」

「俺は、松下」

「言われてみれば、名乗ってなかったな、ボロだ」

「…幸運を祈っているよ…」

 男は格子ごしに手を差し出し、俺とボロと握手した。


「さて…結局この階層2から出られないな…散々歩いてわけの分からない数式だけか…」

「…ああ…」

 ボロは落胆したようには見えなかった。しばらく進むと広い場所に出た。

(この赤い地面と血の臭いの方がまだ快適だな…)

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