青い世界
俺、ボロ、ニトの3人は階段を下り、突き当たりにドアを見つけた。
「ここだ…」
ボロはパスワードを解読する紙を片手に、ドアのそばに置いてある端末のキーを押し始めた。
バタバタバタ…
さっきのアイザック軍団の足音が聞こえてきた。
「もう来たのか!早く!」
ボロとニトを見る。
「マツシタ、2分でいい。どうにか止めてくれ!」
ボロはそう言うと、拳銃を俺に投げてよこした。
「頼んだ…」
ニトも俺に拳銃を手渡した。
「…分かった」
ボロとニトはドアを開けて制御室に入った。無数のコンピューターの中央に、一際大きなコンピューターを見上げている。
「急ごう」
ボロはコンピューターに付属しているキーボードを叩き始める。
「ボロ…こんなときになんだが…」
ニトがうつむきながらボロに話しかけた。
「…どうした?」
「アイザックがいなくなっても、地獄を続けるつもりか?」
「…そうだ。もちろん、罪の無い人達を地獄に送ることはしない…」
「ボロ…俺は、天使として人を地獄に送る仕事をやってきた。…本当に、救いの無い…罰を与え続けることが必要なのか?」
「…」
(この…)
パンパンパン
銃を撃ち続ける。倒れても倒れてもアイザックも、俺も起き上がり、何時までたっても不毛な撃ちあいが終わらない。
(!?)
アイザックたちは消え、不意に俺1人になった。
(…ボロのおかげか?)
ウイイン…
ドアが開いてボロが出てきた。
「終わったぞ…」
そう言うと戻ってしまった。
「ボロさん?」
俺も後を追う。
「…ニトさんは?」
「…分からない…。アイザックが何らかの手段でデータを消したのか…。突然目の前から消えてしまった…。ザラナドも…見当たらない」
ボロはコンピューターにくっついているモニターを指した。写っているのは、エレベーターがある部屋の入り口だけだった。
「…アイザックは消えたんだよな…」
モニターを見ながら、ボロに聞いてみるが何の返事もない。
「ボロさん?ボロさん!?」
振り向いたが誰もいなかった。辺り一面デスクトップパソコンみたいな箱だらけだった。どこまであるのか、水平線が見えそうだった。
「言っておくが、ニトを消したのは僕じゃないぞ?」
「うわ!」
アイザックがいた。
(データは消えたはず…)
アイザックは俺がそう思ったのが分かったらしい。
「ボロ達より少しだけ早くここに来ていた…。そして、ザラナドのデータに自分のを上書きしておいた…。やはりボロは僕を消そうとした…」
ボロがさっきまで立っていた地面を見つめた。
「ボロはニトも消した…。自分の思想から抜け出せないんだろうな…」
「…俺も消すのか?」
「…記憶は消す。ここのことは忘れて、天国で暮らせばいい…。ザラナドも元に戻そう…」
「…その前にナー」
ナーラのことを言おうとした。
(?)
「アイザック?」
あたりを見てみたが、アイザックはおらず、また1人になった。
(またかよ…今度は誰の仕業だ?)
「…私がやった」
「ボロさん…」
コンピューターの陰から今度はボロが出てきた。
「ついさっき、コピーしておいたんだ…誰が私の代わりになったのか分からないが」
どうやら、アイザックの前に同じことをしていたらしい。
「…ニトさんは?」
「……アイザックの言ったとおりだ」
「…そうか…。このコンピューターの群れが、あの世の全てと裏表なんだよな?」
「そうだが…」
ボロは俺の反応があっさりしていたので驚いたらしい。
「階層1にいるナーラを戻して欲しい。アイザックは、罪は無いと…」
「…分かった」
ボロは見上げても先の見えない、この部屋で一番大きいらしいコンピューターの前に行き、くっついているキーボードを叩いた。
「これでいいはずだ…」
ボロが手を止めてこっちを向いた。
「できれば…ナガルの…ニトさんのマンションに送ってほしい…。モニターにも出してくれ…」
「あ、ああ…」
さっきのモニターにニトのマンションにいるナガルが写った。そして、そこにナーラが突然現れた。驚いて慌てる2人、そして、喜び抱き合う2人。
(………)
「いいか?」
ボロが言った。
「ああ…。ところで……ここのコンピューターがあの世そのものなんだよな?ここが無いとあの世も存在しない…」
念を押した。
「?そうだ…」
「なら…」
俺はポケットから、手榴弾を取り出した。ナーラが夢の中で作ったものだ。
(全て壊してしまいたかったから作ったもの…十分な破壊力だといいが…)
「何をするんだ!?」
ボロは目を見開いてこっちを見た。
「元に戻そう…。消える魂は消そう…それが元の自然な姿なんだろ?」
「違う!自然ではないから、私があの世を創る役目を担ったんだ!!」
「…じゃあ…俺が壊す役目を担ったんだよ…」
「そんなはずはない!善人は魂を救われ!悪人は裁かれる!これが当然の…あるべき形なんだ!」
「…俺の思うあるべき形は…死んだら終わり…なんだ」
「いいのか?消えるんだぞ!君の全てが!もう、あの世に行くこともない!!」
ピンを外し、放り投げた。一瞬、光を感じた。
(ここは…)
見渡す限り青く、空に浮かんでいるようだった。
(涼しいな…)
「悪かったな…」
隣にいるボロに謝った。
「…全くだ」
ボロの顔には寂しそうな、笑みが浮かんでいた。
「まだ…消えないのか?」
「消えるさ…あと数十秒で…」
「あの世は消えたのか?」
「…きれい…り吹っ飛…よ…。私と…ックの…界」
「聞こえないぞ?」
「通…テムも消え…」
(?)
目の前が真っ暗になった。
そして、消えた。