制御室へ
松下、ボロ、ザラナド、ニトはエレベーターに乗っていて、そのエレベーターは下降し続けている。
「どこに向かってるんだ?」
ザラナドがボロに訪ねた。
「制御室兼データルーム…。我々もアイザックも死ぬことはない…。先にデータを消去された方が負けだ」
「何を言ってるんだ?」
「マツシタも来たから最初から話そう。『神』と呼んできたが、ただの人間。名前はアイザック。私とアイザックが中心になってこの、あの世を創った…ニトも協力してな。アイザックは魂を人工的に創った世界に移動させる方法を考え出した。現世で魂は肉体とともに存在していて、肉体が滅べば魂も消える。あの世で肉体に相当するものは、これから行くところにある、コンピューター内に記録されているデータだ。アイザックにデータを消去されれば、我々の魂…つまり存在そのものが消える」
「よく分からないな…ここにいる我々は何者なんだ?」
「正確にはここにはいない。あの世全てが、これから行くところにあるコンピューター内に入っている。悪魔も、地獄の階層も、天国も我々も、肝心のコンピューターそのものも、全てがコンピューター内の出来事…全てはあの世内で完結している。『ここにいる我々』もデータの存在だ」
「矛盾してないか?コンピューターがコンピューター内とは…」
「コンピューターとあの世は表裏一体…そういうものだとしか言えないな」
ボロは苦笑いした。2人の話が止まったようなので、俺が念を押してみる。
「…これから、そのアイザックのデータを消すのか?」
「そうだ…。さて、ニト。銃を配ってくれ」
ニトは小型の拳銃をザラナドと俺に渡した。ボロが説明する。
「弾は10発。傷は数秒で治るから、撃っても撃たれてもどうということはないが、足止めくらいにはなるだろう」
急に地獄でボロに紙を渡したことを思い出した。
「…設計者か…こんなに大きなものを創っていたとは思わなかった」
ボロはこっちをみて微笑んだ。
ガタン!!
突然エレベーターが停止した。俺は転びかけた体勢を立て直してボロに向かって叫ぶ。
「どうした!?」
「アイザックだ…」
エレベーターのドアが開く。そしてまた目の前が真っ暗になった。
(またこれか!!)
「ボロさん!」
まだ声は出せるし、声も聞こえた。
「待ってろ!すぐに解除コードを…」
(!どこだここは!)
視界が元に戻った。目の前は白い壁で、左右には白い廊下が伸びていた。慌てて後ろを振り返るとエレベーターの閉まったドアがあった。
(…俺だけはぐれたのか…)
ドアの隣にはパスワードを入力する端末がくっついていた。
(…階段はどこだ?)
とりあえず右に歩いてみる。
「マツシタ君だね?」
「!」
声のした方向に拳銃を構える。
「撃っても意味が無いぞ?君とは話をしなかったからな…話しに来たんだ」
「誰だ?」
「アイザックだ。どの辺まで話を聞いている?」
「!…ボロとあの世を創ったと…」
(蛇…みたいな顔だな…)
「…君はなぜボロの味方をしている?」
「味方はしていない…それより、こっちから聞きたいことがある。ナーラはなぜ地獄にいる?」
「ナーラ…。ああ、彼女の父親もボロの仲間でね。父親は現世で作業しているから、彼女の方を地獄に落とした。そうすれば父親も逆らわないと思ってね」
「ナーラ本人は何もしていないのにか?」
「そうだ。ボロのことが片付けば元に戻そう。地獄の夢の記憶を消去すれば何も問題ない」
「…。もう一人…階層2にいたころ、オルバという名前だったかな…。罪は犯してないと言っていた。同じような理由なのか?」
「いいや、ボロの件なのはナーラさんだけだ。他にそんな人がいるとしたら、そいつが嘘を言ってるか、地獄を体験してもらってるだけだ」
「体験?」
「臨死というものだ。地獄の存在を証言をしてもらう。そのオルバはおそらくもう現世に戻っているはずだ」
「それで…地獄の恐怖で現世の神にもなろうってか…」
「それは違う。君は…人はなぜ善人であろうとすると思う?それは罰を恐れるからだ。科学が発展した今、死後の世界が存在すると信じる人は日々少なくなっているだろう。それは恐れるべき罰がなくなることを意味する…。あの世は現世のためにも存在することになるんだ。あの世の裁判が、絶対的な道徳の基準になる」
「そうか…やはり、賛成できないな」
パンッ
俺はアイザックに向かって発砲した。弾は胸の辺りに命中した。
「これが…君の答えか」
アイザックは胸に手を触れ、そのまま倒れた。
(…あっけない…)
ウイイン…
エレベーターある部屋の扉が開いて、ボロが出てきた。
「大丈夫か?」
「ああ…」
俺の視線の先にボロも目を向けて呟く。
「…残念だよ。アイザック…」
「…行こう」
エレベーターに戻ってザラナドとニトと合流し、また下に降りていく。
ガタン
「またか!」
エレベーターが止まった。
「ここからなら降りて階段を使った方が早い…」
「ああ…そうしよう」
ニトの提案にボロが同意し、俺達4人はエレベーターのドアをこじ開けて隙間から這い出る。ボロがエレベーターの部屋のドアを開けた。
パパパパパパ!!
「うわああ!!」
突然銃声が響いて、俺は慌てて後ろ逃げた。
「ひるむな!撃たれても関係ない!」
ザラナドが叫んで、銃を構えて突っ込んで行く。他の3人もそれに続いた。
「何だこいつら!全部アイザックじゃないか!!」
ザラナドは撃ちながらボロやニトの方を向いた。
「自分をコピーしたんだ!」
ボロが撃ちながら叫び返した。
俺の足に顔に手に胸に腹に銃弾が当たり、あちこち損傷していく。痛みはほとんどないが、恐ろしくて息を過剰に吸い込んだり吐いたりしてしまう。
「がっ」
頭に当たってしまった。しかしすぐに目が覚めて立ち上がり、またアイザックに銃を撃ち込む。それは無数のアイザック達も同じだった。
「この!」
ザラナドがアイザックの1人につかみかかって、素早く自分の服を破いて、アイザックの腕を縛りつける。
「無駄さ。天国の者は束縛を受け付けない…」
アイザックはにやりと笑った。腕が一瞬だけ消えてザラナドの破った服が地面に落ちた。
「くっ!みんな先に行け!ここは俺が止める!!」
ザラナドが叫んだ。ボロが先にアイザック達に突っ込み、ニトと俺が後に続いた。1方向にひたすら撃って撃って進んだ。視界はアイザックだらけで、何が何だか分からなかった。足も倒れたアイザックを踏んでいて地面を蹴れない。ごったがえした中、つかみかかってきたアイザックを撃ち、気がつくと、階段を転がり落ちていた。
「うわあああ!!」
ドン
壁にぶつかって止まった。
「大丈夫か?」
ニトが手を出してくれ、それにつかまって立ち上がった。