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階層3 苦痛の地獄

ああああ…

 マスクのおかげで臭いは分からないが、あちこちから悲鳴が聞こえてくる。自分でもどうしてそうしたのか分からない、怖いもの見たさかもしれない。悲鳴のする方向を見てしまった。業火の中に、人の顔が多数あった。

(この人達も…死ねない人達なんだよな…)

「うぐ…」

 吐きそうになる。

「見るな…」

 顔中汗まみれのザラナドが言ってきた。

がりがり…がり…

きゃああああ…

「く…」

 両手で耳を塞ぎ、前を歩くボロとニトの足だけを見て進んだ。

「ここからは絶対にマスクを外すな…」

 ニトが全員に指示した。顔を上げると前方にタバコの煙のような白い煙で濁っている場所が見えた。また、ボロとニトの足に視線を落として進む。

「?」

がしっ

「うわああ!」

 肩をつかまれた。

(何だ!これ…は)

 目の前に、色は緑色で、あちこちが腫れていて人の顔に見えないものがいた。

「タス…ケ…」

ドン…どさっ

「おう…悪かったな…」

 悪魔だった。どうやら槍で俺をつかんでいた人を引き剥がしたらしい。悪魔は倒れた人をひきずって去っていった。

(今の人…この毒のせいなのか…)

「ここだ…」

 重そうな鉄の扉の前でニトが立ち止まった。そしてこちらを向いて、

「私とボロはここを見張る…悪魔には見学としか伝えてないからな…。2人で行って来てくれないか?」

「…わ、わかった」

 俺が返事をして、ザラナドは黙って頷いた。ボロに紙とペンを渡されて、2人で扉を押して開けて進んだ。

「寒い…」

 扉の外は熱したフライパンに顔を近づけているような暑さだったが、ここでは吐く息が真っ白だ。

「何のためなんだ…?」

 ザラナドが話しかけてきた。

「何のためって…そのまんま寒くして苦しめるんだろ?」

「苦しめる理由のほうだ…俺達やボロは脱出できたが、普通は永遠に地獄なんだろう?現世だったら、建前もあるが更生させて社会に復帰させるのが目的だろう。ここは…見学に来る人のための見せ物にしかならない…。何のためなんだ?」

「…何のためなんだろうな…。神っていうやつの趣味か何かか…相当嫌なやつなんだろうな…」

(そういえば、階層2に行ったとき、『世界を自分のおもちゃだと思っている』って聞いたな…。苦しめても、なんとも思ってないのかもな…)

「!」

「あれか?」

 前方に鉄格子と牢屋が見えてきた。格子も部屋全体が凍っていて、奥のほうに体を丸めて座っている男がいる。

「なんの…ようだ?」

 思いのほかはっきりした口調だった。ザラナドがまず話し出す。

「…神に会いに行くために…エレベーターのパスワードを作る数式を調べたいんだ…知っているか?」

「…何のために『神』に会いに行くんだ?」

「妻が眠ったままになった…。天国で他にも異変が起きているらしい…それを報告し、元に戻してもらう」

「…『神』は人を追放しすぎたからな…」

「数式が分かれば、あなたを天国に移動させられるかもしれない…知っているか?」

「ああ…」

 ザラナドは紙とペンと格子の隙間に入れて渡し、男は受け取って書き始める。

「…どうして、追放されたんだ?」

 俺も質問してみた。

「…逆に質問しよう…どうやって私が追放されたと知ったんだ?」

「人に聞いた」

「誰だ?」

(言っていいものか…)

 躊躇しているうちに、男が話し出す。

「…本人が来ると俺が協力しないようなやつなんだろうな…そいつは…」

「…どういうことだ?」

「追放されたのは『神』と考え方が違ったからだ。お前らにここにくるようにいったやつも『神』と考えが違い、俺とも違う。お前らとも、考えが違うんじゃないかな…」

「?何をいってるんだ?」

「あの世が嫌いなんだ。俺は…。書いたぞ式」

 格子の隙間から紙を投げ捨てると、奥に下がっていった。

「まだ話が…」

「……話す気はないようだ」

 ザラナドに言われ、戻ることにした。

「見せてくれないか?」

 ザラナドに紙を渡す。

「分からんな…」

「ボロは分かるらしい…」

 鉄の扉を開ける。

(…熱いな、今度は…)

「どうだった?」

「どうやら当たりだったようだ」

 ザラナドがボロに紙を渡した。

「おお…2人ともありがとう。さあ、戻ろう」

(帰れるな…もうここには来たくない…)

 また前を歩くボロやニトの足だけみて耳を塞いで進む。毒エリアを抜けてたときだった。

誰かー

(またか…)

 見てはいけないと思っても、そちらを見てしまう。ボロい布1枚だけまとった女性と、その人を連れて行く下品な笑い顔を浮かべた悪魔2匹。

(ナガル?)

「ぐ…」

 今まで耳を塞いで下を見てきたが限界だった。俺は声のする方に走っていた。

「待て!マツシタ!」

 後ろでザラナドが叫ぶ。

ザン…

「マツ」

 ナガルの声が少し聞こえて、俺の胸に悪魔の槍が刺さった。

「う…」

(!)

 目の前が真っ暗になり、音が聞こえなくなる。体じゅうの感覚が消える。悪魔の声だけが、頭に響く。

「じゃまするやつはなあー!天国の人だろうと関係ないんだよー!」


「待て!ザラナド!」

 ニトがザラナドを止める。

「ほうっておくわけにはいかないだろう!どうにかできないのか?」

「下手に動くことはできない…。『神』に知られる可能性がある…」

 ニトは下を向いた。ザラナドは黙っているボロの方を向いた。

「ボロ…さっき渡した紙には誤りがある…。マツシタを助けたら教える…」

 ボロは渋々口を開く。

「…君の奥さんを助けるんだろう?なら我々に協力してくれ。『神』に会えれば、助けられる」

「……。…助けなければ、俺が1人でマツシタを助けに行く…。お前らではあいつは教えてくれないんだろう?」

 ボロはザラナドの目を見つめて小さくため息をついた。

「…ニト…停止コードを使ってくれ…」

「いいのか?」

「ああ…仕方がない…」

 ニトが悪魔の方に走っていく。

「あー?もう1匹来やがったぞー?」

「…!……!」


 最初に聞こえたのは、ニトが叫んだよく分からない呪文のような言葉だった。

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