表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/18

夢と記憶の中

 エレベーターが止まり、ぞろぞろと人が出てくる。係員がマイクで注意する。

「みなさん…もう一度確認致しますが、階層1は大変危険です。絶対に係員の指示に従い、離れないようにお願い致します」

 エレベーターの部屋のドアが開く。

「何だここは…」

 ツアーの参加者がほぼ全員口にした。一面真っ白な部屋に、人1人かがめば中に入れそうなくらいの、球状の黒いガスの塊が無数にある。

「階層1では、軽犯罪を犯したもの、不道徳な思想を持つかまたは実際に行ったものなどが収容されており、罪人達はここで永遠に悪夢を見続けています。この黒い塊はそれぞれが罪人達の悪夢を表しております」

 係員がリモコンを取り出してスイッチを入れると、ガスの塊にぼんやりと映像がうかんだ。

「こちらがこの罪人が見ている悪夢になります」

 内容はよく聞こえないが、男性が女性がいて、向かい合って座って朝食を摂っているらしい。雰囲気は明るく、夫婦か恋人同士らしい。女が自分の口に付いたケチャップを拭く。取れないのかごしごし拭きはじめ、ついには顔全体を荒っぽくこすり始める。男の方は異常な女の動作に驚いている。拭き終わった女の顔は別人だった。男は絶叫して、家から飛び出て走る。慌てふためいて人とぶつかって押し倒してしまう。女の顔はさっきの顔を拭いたあとの女の顔だった。男はまた絶叫して走り出す…。

ブツ

 係員がリモコンで映像を消した。

「えーこのように…」

(…不倫でもしたのかね…)

 手が引っ張られる。ニトだった。

「そろそろ行こう」

 俺達はゆっくり後ずさりしてツアーの集団から離れて走り出した。

「向こうです…!」

 ニトの案内でナーラという人の悪夢らしい球体が見えてきた。

「悪夢は人それぞれ違います。帰って来れるとは限りません。それでもいいですか?」

「ああ」

「…はい」

 球体の前にたどりついた。

「覚悟ができたら、球体に飛び込んでください…」

「行こう」

「…」

 俺とナガルが飛び込んだ。


「火事?」

 目の前は真っ赤になっていて、現実と同じような熱気を感じた。

「ナーラー!!」

 ナガルが叫びながら走ってどこかに行ってしまった。

「くっ」

 慌てて後を追って前方の燃え盛っている家に入っていく。

ガラガラガラ…

「アツッ!」

 天井から焦げた木らしいものが降ってきて、足にぶつかった。

(戻るか?)

 後ろを見ると見渡す限り真っ赤になっていて、入ってきた場所など見当たらなかった。

(進むしかねえか…)

ドオン…ドドドド

 遠くで何か爆発する音がした。

ドオン!!

「ぐ」

 目の前が爆発し、体が吹き飛び、よく焼けたトタン屋根の上に落ちた。

「あっつち!」

 転がって屋根から下に落ちる。

「ふうふう…」

 いろんな色になっている腕を見る。火傷の傷と痛みはみるみるうちに消えていった。

(なるほど…便利な体だ…。上から降ってきた?)

 見上げると、真っ暗な空に飛行機のようなものが飛んでいた。

(空爆にでもあっているのか?…向こうか?)

 適当に辺りをつけて走っていく。

ドンドン!チュン!ピシュン!

 周りの焦げた塊やらが飛んだり、かけたりした。

「ぐあっ!!」

 足が突然いっきに熱くなり、一瞬だけ鋭い痛みが走った。

(…銃弾が当たったのか?)

「誰…?」

 銃を持った少女が立っていた。

「ナーラ…か?俺は松下という名前で…ナガルという人と一緒に来た」

「…ナガル…。天国に行けたの?」

「…ああ…」

ドオン!

 近くで爆発があった。

「どこか。安全なところは?」

「そんなところはない…」

「…ナガルを探そう」

 2人で走り出す。

「爆撃が落ち着いてきたか?…ナーラ?」

 慌てて周囲を見渡す。爆撃は止まってしんと静まり返り、ぱちぱちと燃える音だけが響いていて、誰もいなかった。

(不気味だな…)

 どこに行けばいいのか分からないが、歩いてみる。

「ひいっ!!」

 ところどころ骸骨が出ている焼けたものがあった。

「やれやれだな…」

 気を取り直して歩き出す。前に建物が見えてきた。黒いドアを開けて中に入ってみる。

「…。はっ?」

(病院?)

 病院の受付が目に入ってきた。カウンターの向こうでは看護師達がわたわたと作業している。30ほどあるイスには老若男女問わずたくさんの人が座っている。振り返ってもドアは無い。

(……)

 俺の後ろからばたばたと男性が歩いてきて受付に向かう。何か言われて奥に進んでいく。

(何となく…さっき見たナーラに似てる…父親か?追ってみるか)

 いくらか距離を空けて追ってみる。急いでいるらしい人を追うのは面倒だったが、どうにかついていった。

(視界がぼやけているような気がする…)

 2、3度目をこすってみたが変わらない。

(夢の中だからか?さっきの空爆みたいなところははっきりしてたんだけどな…あ)

 ふと、自分の格好に気がついた。ところどころ服が焼け焦げて、傷はふさがっているがべったり血がついている。

(…でも、周りの人は普通に通り過ぎてるな…。俺のことは見ええてないのか?)

 男は階段からフロアに出た。

(この階…産婦人科のフロアなのか…)

 男は病室に入る。

(…周りには見えてなさそうだけど……)

 やや躊躇してから入ってみる。母親らしき人の隣の小さなベットで赤ん坊が眠っている。それを見て入っていった男が微笑んで何か話しかけている。

(…幸せ空間だな…。俺が生まれたときはどうだったんだろう…)

 振り向いて、病室を出る。

「マツシタ…どうしてここに?」

 廊下にはナーラが立っていた。

「分からない。黒いドアがあって開いたらこの病院に…。部屋の中にいるのは親?」

「…見たくない…何度も見たから」

 うつむいて、廊下を走って去っていく。

(なんで?)

 行く場所もないので後を追う。前方には黒いドアが見えてきた。

(……また移動するのか?)

 ドアノブに手をかける。

(…やっぱりな…)

 予想通り移動し、今度は家の中に入った。病院より、視界が鮮明になっている気がした。電話で男が話している。

(ちょっと老けたけど…さっきの、ナーラの父親っぽい人だよな…)

 あたりを見渡す。ナーラの母親らしき人と幼いナーラらしき女の子がいて、一緒にお絵かきでもしているらしい。

(…まだ幸せ空間だな…)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ