【第6章】 問いを残して、未来人は去る
卒業式の準備が始まっていた。
校庭には仮設のテント、講堂には並べられたパイプ椅子。
でも、生徒たちは落ち着きがなかった。
「なあ、“問いノート”って、卒業しても続ける?」
「逆にさ、これ、就職活動で出したらウケんのかな?」
「“将来の夢”より、“今の問い”聞いてほしいよな……」
その日、最後の“問いノート”を提出した生徒がいた。
『人は、何かを学び続けるために、生きてるのかな?』
担任教師は、それを見て何も言わなかった。
ただ、静かにノートを閉じた。
その夜、未来人は誰にも告げず、学校の黒板の前にいた。
いつものランドセルを背負い、チョークを手に取る。
一言だけ、書いた。
『学校って、“問いの使い捨て場”になってないですか?』
未来人は何も言わず、
そのまま校門を抜け、歩き出した。
翌朝、教師たちはその黒板を見て、立ち尽くした。
誰も消さなかった。
報告書にはこう記されていた。
【未来人による教育制度干渉・完了報告】
結果:制度の改正なし。公式記録なし。法改正なし。
だが、
黒板の“?”が消されない日が増えた
教師が「お前はどう思う?」と聞き返す回数が増えた
生徒の進路希望欄に“未定(問い中)”と書く者が現れた
教育制度は何も変わっていない。
だが、“制度の下にある問い”が、確かに動き始めている。
──未来人は、問いだけを置いていく。
制度も、思想も、答えも置かずに。
そして今日もまた──
どこかで、誰かのOSが静かに再起動する。
──今日も制度が、わがままでできていく。