【第4章】 “答えのない授業”で静まり返る教室
「というわけで、こちらが“探究ログ”になります!」
未来人が教壇に立って、ランドセルから取り出したのは、
タブレットと、なぜか大量の付箋紙だった。
「今日は“問いの出し方”だけを学びます!
答えはいりません!
黒板に“?”が一個でもあれば、授業成立です!」
生徒たちは戸惑っていた。
「……え、なにこれ?」
「黒板に“?”書いたらいいの? それだけ?」
「ガチで何も教えないの?」
未来人は笑顔で黒板に一筆書いた。
『なぜ学校は朝に始まるのか?』
ざわつく教室。
その問いに、誰も答えられない。
でも、なぜか空気が締まる。
「はい、今日はこれでOKです!」
「……は?」
「この問いに、誰も答えなかった。でも、誰も笑わなかった。
つまり、“考えた”ってことです。
“考える”って、“黙る”こととほぼ同義なんですよ」
【その日から──】
学校に「問いノート」が導入された。
1日ひとつ、自分だけの問いを書く。
誰にも見せなくていい。評価もされない。
ある日、ある教師がノートを開いて驚いた。
『人を育てるって、どこまでやれば終わりですか?』
書いたのは、小学3年生だった。
他にもあった。
『勉強が嫌いって、言っちゃだめなんですか?』
『先生って、いつから“先生”なんですか?』
問いは、答えのないまま増えていった。
でも、生徒の目は少しだけ変わっていた。
教師たちも変わり始めた。
板書のスピードが、少しだけゆっくりになった。
授業の終わりに、「今日、何か問えましたか?」と尋ねる教師が現れた。
教育委員会の報告書には、こう書かれていた。
“問い”という形をした沈黙が、校内に浸透している。
未来人は静かに、それを見ていた。
ランドセルに、新しい付箋を詰めながら。
【次章予告】
第5章:最後に“問うた”のはいつですか?
問いに触れた教師たちが、いよいよ自らの“過去の沈黙”と向き合い始める。
制度を超えて、教育の“存在意義”が揺れ始める章へ──。