異世界への転生 ①
サクラが目を覚ましたとき、最初に感じたのは冷たい感覚だった。肌に触れる風が、まるで体温を奪うかのように冷たく、彼女は思わず体を震わせた。しかし、視界に広がるのは見慣れた景色ではなかった。空は青いが、太陽の位置が不明で、地面はまるで溶けた金属のような輝きを放っていた。
「ここは一体…?」
サクラは混乱した。事故に遭い、意識を失った記憶しかない。それなのに、目の前には見たこともない、どこか異次元のような光景が広がっていた。
ふと、身を横たえていた地面に手をつくと、冷たく硬い。その違和感に驚きながらも、何とか立ち上がった。身体に異常はないようだったが、どうしてこんな場所にいるのか、全く分からなかった。
「あれ…?」
突然、背後から足音が聞こえ、サクラは振り向いた。そこには、見たことのない男が立っていた。彼は、サクラの顔をじっと見つめている。身なりは豪華で、やや浮世離れしたような雰囲気を持っていた。
「目を覚ましたか?」と、男は穏やかな声で話しかけてきた。
サクラは自分の状況が飲み込めず、ただ無言で男を見つめ返した。
「どうやら別世界から来たようだな」と男が続けた。
サクラは驚き、目を大きく見開いた。異世界という言葉は、まさに彼女が夢見ていた世界そのものであった。しかし、信じられなかった。転生だなんて、ただのファンタジーの話ではないか…。
「君は…もしかして、転生者か?」と男は少し不思議そうに問いかけてきた。
「転生者…?」サクラはその言葉に反応し、思わず口にした。「そんなはずは…。私は…ただの大学生…」
「現時点で、それは関係ない」と男性は言った。 「君のような人間は、エーテルの力を使える者だと聞いている」
サクラはエーテルという言葉に少し引っかかったが、今はそのことを深く掘り下げる余裕はなかった。異世界という現実に圧倒されるばかりだった。
男は彼女の戸惑いを感じ取ったのか、優しく言った。「安心してくれ。今はまだ驚いていることだろうが、君には大いなる力があるはずだ。それに、君の知識は、この世界では非常に貴重なものとなるだろう」
サクラは男の言葉に驚き、そして自分の知識がこの世界で何か特別な力を持つことを、直感的に理解した。
「私は、魔法について基本的な知識はあるけれど…」と、サクラはやや躊躇いながらも口を開いた。
「それが、この世界では大きな力になる」と男は微笑んだ。「魔法の仕組みは、本来、理論的な体系にに基づくもので、我々の世界でも理解している者は少ない。だが、君にその基本的な仕組みの知識があれば、すぐにこの世界のエーテルの力を操ることができるだろう」
サクラはその言葉に納得し、ふと周囲の景色を再度見渡した。確かに、どこか不自然なエネルギーがこの世界を満たしているように感じた。そして、それはまさに彼女が科学として学んできたものとは異なる、異次元の力であることを実感し始めていた。
「私、どうすればいいの?」サクラは少し不安そうに尋ねた。
男は少し黙った後、ゆっくりと言った。「まずは、この世界の魔法の基本を学び、それから君の力を活かして欲しい。君が持っている知識と技術を、我々の社会に生かして欲しい」。サクラはその言葉で覚悟を決めた。新しい世界で、何かを成し遂げるためには、まずは自分の力を理解し、周囲と協力することが必要だと感じていた。
そして、サクラは、目前の男をじっと見つめた。この世界の王族とも関係が深い名門貴族だという、彼の名前はカイン。サクラの転生後の運命に大きな影響を与える人物だった。
そして、この瞬間から、サクラの冒険は始まった。