西の大陸
「ラヴ、解体はどうだ?順調か?」
「絶好調デス!あとは、3Dデータにして私のディスクに保存するだけデス!あと、十二秒くらいですかね」
クラリが作り出した魔の洋館、その地下。
薄暗く、洞窟のように地面をくり抜いたままで、舗装はあまりされていない。
照明は点々に松明が壁に設置してあるくらいであるだけマシ、程度のものだった。
そんな地下室には部屋が二つある。
拷問室と牢屋だ。
名前に似合うほど簡素な部屋の作りで、来訪を歓迎するような家具や調度品はない。
拷問室なら拷問器具が静かに並び、牢屋なら最低限のベットやトイレ。それだけだ。
その拷問室に邪神が二人たっている。
一人は、本来なら人を縛りつけ、痛みつけるためのコンクリートのベットに青緑で太い紐の様なものにメスを入れている。
なかなか使わない、針のように細いサブアームを六本背中から出し、細々な所まで分析している。
一人はそれを六本の腕を器用に組み、もう一人の作業を傍観している。
魔法の照明で虫を照らすことぐらいしているが、クラリにはラヴが何をしているのかわからない。
クラリが思ったことといえば、絵面が1900年代の映画みたいだなくらいだ。
異星人と戦うあれ。
約200年前の映画なのに、あそこまで表現できるのは単純に尊敬する。
CGもなかった時代だし。
でも、この世界が、映画なら自分はエイリアン側では?種族的にも行動的にも。
「クラリ様?クーラーリーさーまー?」
「ん、あぁごめんごめん考え事してた」
「解析100%デス!親熊も一応やっておきマス?」
「あぁ、よろしく頼んだ」
「合点デス!」
ペタペタと足の代わりの手のひらで音を立てながらクラリは拷問室を出る直前で、そう言えばと
「ラヴ、解析終わった虫、あいつらに見せてもいいか?」
「あの人間ドモですカ?問題ないですが…一体何に?」
「知ってるかも知れないだろ?知らなかったら知らなかったで、俺たちの実力を見せつけれるしな」
実力を見せたら、もっと大陸を詳しい所まで教えてくれるかもしれない。
信頼が功を奏して得することはいっぱいある。事実、ゲームがそうだったように。
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「こ、これは!?」
「親熊の体に寄生していた奴だ。わかるか?」
場所は変わらず、二階の談話室。
ラヴのスキルで生み出された兵達も、親熊を倒しに行く前から変わりはなかった。
唯一、変わった所は冒険者の気絶していた二人が目覚めているくらいだろうか。
クラリが入室した瞬間、盗賊の男は、静に目を閉じ、魔術師の女は手と顔をアワアワさせながら戦士に何か話していたが、着席する頃にはそれもなくなっていた。
それと、クラリはラヴがスキルを使用していることを知らず、入室時困惑してしまったが、冒険者達は特に気にしてはくれなかった。
クラリは解剖済みの寄生虫を机の上に置く。寄生虫は縄のような太さで、青緑色。
長さはニメートル程度。談話室の机にちょうど入るくらいの長さだ。
「わ、わかります!知っています!これはグレーター・ワームといいます!我蟲城の奴らの手下です」
「ガチュウジョウ?なんだそれは」
「我蟲城とは、ここから海を越えて南西に行くとある、蟲人たちの住処です。奴らは、年に数回魔物などに寄生虫などを送り込み、その魔物を使って人間を海側まで誘導しそのまん攫う連中です。」
「なるほど、あの熊は利用されていたのか」
「えぇ、ユニコーンベアは親に従順な性格を持ちます。親熊を洗脳すれば、子グマも洗脳したも同然でした…」
「そうか…」
凄いことではないのか。
思っているよりもこの世界は解剖技術が進んでいるのかもしれない。
「ならば、あまり好感度は稼げないか…」
「コウカンド?そ、それは一体」
「い、いやなんでもない。それよりも大丈夫なのか?寄生虫がまだいるかもしれないだろ」
「はい。本来なら襲ってくる周期があるので皆この時期には来ないと思っているでしょう。なので今魔物たちが来るととても危険です。防衛はできますが、今の時期は油断し報告が遅れるかと…」
戦士は顔を下げず、クラリの淡い光を見つめる。本来であるならば、恐怖するような異形のものだが、物怖じせずに立ち向かっている。魔法使いは戦士に対して、「こいつに戦わせるの!?」とか「こいつ逆に人間ヤるって!殺されるの私達!」など、聞こえないように小声で言っているつもりだが、クラリには丸聞こえだ。
盗賊はクラリに視点を合わせて話を聞いているふりをしている。本当は壁にある絵画の絵の具の質感がわかるまで凝視していた。
このような状態からクラリは気づいていた「あれっ、もしかして俺嫌われてる?」と。
学生時代から友達ができず、たまたま始めたゲームで上手いと称されて、ゲーム実況を初めてそれがウケた。
つまり、クラリには友達がいない。学校で受けるはずだった知識は、大体ゲーム内で完結した。
『(いや、落ち着くんだ俺!潜血のアルフレッドのセリフを思い出せ!)』
「…力が欲しいか?」
「えっ?」
「力が欲しいか?若造ども、いまならタダでや助けてやるぞ?」
クラリはゲーム内のキャラのセリフを丸パクリした。なんなら声色も重くし、ちょっとだけ近づけた。
「そ、それは嬉しいのですが…」
戦士の視線が重い。何か足りない部分でもあったのだろうか。
なんだ?本当になんだ?ちょっと重いキャラだったのが悪かったのかな…よし!
「なぜタダなのかわかるか?」
「な、なぜでしょう」
「お前らに期待しているからだ」
「「「……!」」」
冒険者三人は眼を大きく開く。
それは、真の冒険者。英雄願望のある彼らにとっては甘美な天空の果実だった。
「今のお前らは確かに弱い、俺の力で捩じ伏せれる。だが、お前らには光がある未来を見たんとする輝きが!」
クラリはバッとローブから六本の腕を天を仰ぐように、広げてセリフを吐く。
「だからなのかもな、珍しく人助けなど」
「そ、それって私たちに才能があるってこと…?」
魔法使いが恐る恐る姿勢を低くして質問する。
「あっ、あーそうだ!そう!お前らには才能がある。だからそれを見込んでタダなのだ」
はたから見れば怪しいのは目に見えているが、冒険者達にはその怪しさに気づかない。
「じゃ、じゃあよ我蟲城の奴らもやっつけてくれるんだな…?」
「も、勿論だとも!!」
まかせてくれと言わんばかりに三本の右腕で同時に胸を叩く動作をする。
「この私、嫌星クラリが貴様らの敵を殲滅してやろう…特別にな」
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「クラリ様…なぜそいつらに執着シテ…?」
地下の拷問室。ラヴはスキルで生み出した兵たちからの情報共有で状況を見つつ、親熊の分析を続けていた。
「たかが人間にそのような嘘を…しかもアルフレッド?あの男の名前マデ…マサカ!」
機神の名の通り、神の領域にも達するその頭脳はどうしようもないことに時間を割く。
そしてどうしようもない結論を導いた。
「クラリ様は…男好き…?なのデスカ??」