クリアリング
屋敷の外、森の内部に神が二人。開かれていない道は、宙に浮く鎌が無理やり木を切り、道を開いていた。
「ラヴ、この方角なんだよな?」
「はい、間違いありません。私の「飛翔する監視液晶体/フライ・カメラ」で常時監視しております。また風の吹き方から見て正面からくるのはあきらかです」
「そうか…」
「(風の吹き方とかでわかるものなのか!?俺は全然わからんが…わかってるフリしとこ……)」
「…?あ、来ますよクラリ様」
鎌が動きを止め、クラリの前に舞い戻り、ラヴが真紅の大剣を構える。赤い刀身は太陽の光を奪うかのように輝いていた。
「(え、まだ見えないんだけど!?ええっと、望遠鏡で見えるか?)」
クラリは魔法「望遠鏡/ルック・ミラー」を発動すると、クラリの目の前に紫の半透明の魔法のレンズが現れた。効果は望遠鏡を使うのと同じだ。
魔法を利用してやっと見えてきた。親熊は前に殺した熊の数倍の体格をもっており、頭から生えた角は巨大で虹のように輝いている。
また、森に溶け込むには不向きな純白の毛皮をもっている。アルビノだ。
「どうしますクラリ様?」
親熊は、よだれを垂らしながら、四足歩行で向かって来ている。
「どう…とは?」
「私の主観ですと、コートなどの羽織るものがよろしいかと」
殺すのは確定かい。とクラリは突っ込もうとしたが、なんとか抑えた。
だが、慢心はいけない。ゲーム内では、見た目や前例で対処してはいけない場面が多々見受けられた。氷のモンスターの弱点が氷だったり、明らか敵な見た目のやつが超重要な味方だったりする。これは終盤に限っての話だが、この破茶滅茶な耐性などで、攻略を諦め、MOD勢に移行する人が多くいた。
今回の敵も例外ではないとクラリは考えた。
これがゲームの終盤の敵ならば、「敵の攻撃、魔法を十回まで反射する」みたいなクソアビリティをつけるくらいはする。+アイテム全ロストくらいはつける。
束の間に考えがまとまったクラリは行動に移す。
「ラヴ、待機だ」
待機コマンド。
NPCに命令できる一番簡単な命令。その名の通り、その場で待機させることができ、NPCは攻撃されない限り動かない。
「っ!…承知いたしましたクラリ様」
ゲームの名残りか、機械からなのか、ラヴはいとも簡単に承認した。ただし、警戒はしており剣は構えたままだ。
親熊はもうそこまで迫っている。クラリ達に接触するまで、五、四、三…
「ラヴ!飛ぶぞ!」
「はい!」
ラヴは身体能力による跳躍、その後手の平と足の裏からジェットが噴出し、その機能により浮き上がり、留まる。
クラリは魔法で空に飛び上がる。空中に留まる邪神の足である無数の手が宙ぶらりんになり、奇妙さを湧き立てている。
親熊は木にぶつかり、多少痛がったものの数秒後には宙に浮くクラリ達を見つけ、降りてこいと言わんばかりに当たらない爪を振り続けている。
「ラヴ。初めての敵を見た時どうする?」
「とりあえず殴りマス!!!!!!」
「なんでや…いや、なんでもない。その回答は不正解だ。」
「なぜデス?殴って体液を取れサエすれば、私の機能デ基本ステータスはわかりマスし、私の攻撃が効かナイ時点で防御力を強化してイルか、無効化しているかわかるはずデス」
「ふむ、お前の機能では測れないところがあると思ってな。サーチ魔法をあの熊にかけてみろ」
「了解デス!「敵兵探知/サーチ・エネミー」…?」
ラヴの目の周りに魔法のレンズが出現し、その魔法により親熊の隅から隅まで調べ上げられた。
親熊の名前は「虹の防人」。大層な名前の割にはステータスはだいぶ低めなことがわかった。戦闘特化でもないNPCの攻撃を受けてもワンパンされるだろう。
状態異常は「敵勢」「憤慨」ともう一つ「宿主」。
「クラリ様、あの熊の状態異常に「宿主」がありました。何か別の存在に洗脳されているものと推察されます」
「宿主」。対象が何者かに寄生、および洗脳されている状態を示す状態異常。本人が解除できない場合この「宿主」状態として判定され、自己解除、自己回復できる場合は「寄生」あるいは「洗脳」状態として判定される。
つまりこの親熊は、完全に自己を失い、何者かに操られていることになる。
「よくやったラヴ。敵のステータスはどうだった?」
「低いですね、私のデコピンでも九割以上のお釣りが帰ってきます」
なるほど、さっきの熊とステータスはあまり変わらないようだな。寄生されてステータスが大幅減少している可能性もあるが。
…とクラリは手の一つを顎に添えるような動作をしながら頷いた。
「どうしますクラリ様?森ごと燃やします?その場合二分くらいお時間いただきますが」
「なぜそうなる…」
「いや、寄生虫だったら燃やした方がいいかなっテ!」
お前本当にAIか…?と、クラリは言いかけたが、なんとか引っ込めれた。
「とりあえずこのユニコーンベア…こいつに寄生している生物が我々の知らない生物の可能性がある」
クラリはラヴの方を向き、目を合わせながら言い放つ。無論、仮面をつけているので、仮面の模様の目だ。
「ラヴ、熊とその中にいる寄生虫を生捕りにしたい。できるか?」
「…!親子を再会させてあげるんですね!?流石はクラリ様!懐が電子海溝以上に深いです!」
「あ、ありがとう…?」
「じゃあいきますね!【這い出る雷槍/ショック】」
親熊の地面から、ビリビリと電流が川のように流れ始めた。
その後、帯電する親熊に槍のように直線的な強力な電流が胸を突き刺し、巨体がズドンと倒れた。
起動した魔法陣をよく見ると、「魔法最小化/スモール・マジック」を付与し、ダメージを半減させている。
一応麻痺程度には魔法を収めたみたいだ。
2人の神が降り立ち、土をふむ。
「デハ、早速運んでいきまショウ!スキル、発動!、「機神兵団九九九/ジャッチメンター」!!」
ラヴのスキルで機械の兵が一体出現する。
先ほど出現させた、機械の兵とは一味ちがい、親熊にも負けない巨体と巨腕を兼ね備えている。
「じゃあ、それ運んでくだサイ。落とさないでくだサイね?」
兵は、肯定の代わりに一つ眼を軽く光らせた。