面談
「ソチャですが」
「あ、どうも…」
森には数日前までなかったはずの怪しい洋館、その二階、談話室。
木材で作られた床には、部屋全体に真っ赤な絨毯がかけられている。よくみると細かな模様が描かれており、職人の気概が垣間見える。
東側には整えられた食器棚、西側には中世の慎ましい絵画が飾らせている。
周りの家具や調度品は貴族を彷彿とさせる程の物ばかりであった。
部屋の中央には木目が綺麗なテーブル。それに向かうように設置された、二つのブラウンのソファがあり窓の類いは一切ない。
そのソファの片側に冒険者三人。
三人は顔を少しさげなるべく目が合わないようにし、その気まずさから生まれる静寂が、森の鳥たちのさえずりを強調している。
対面には同じくソファに座りながら、パキパキと複数の腕のそれぞれの指を一本ずつ折りたたみながら冒険者を見つめる邪神クラリ。
奥からソチャといいガソリンをコップ汲んでくる謎の仮面の女性。
集団面接の最終形態のような空間の空気は澱みすぎていた。
「あー、で。」
「は、はぃっ!?」
邪神が話しかける、戦士の男が姿勢を定規を後ろに置かれたかのように直した。シャキッと効果音までする勢いだ。
「私はクラリと言う者だ。そっちはラヴ。」
「ラヴです!!クラリ様に変なことしたら殺すぞアバズレども!!!!」
ラヴの無表情な仮面の内からありえないほどに元気が溢れていた。
元気にビシッと中指までたてて、殺気をありえないほど出している。
冒険者たちにとって部屋は沼地と勘違いするようなくらいに居心地が悪かった。
耐えれているのは戦士だけだ。
魔術師のマルネは棺桶に入っているような、死人のような表情をしており、盗賊のフェネは無表情だが、真っ白に燃え尽きている。
「ラヴ、そんなことを言うな、『地図作成/オートマッピング』で探索できる範囲には限りがある。それに地表以外…つまり地下の洞窟や建造物は地図に表記されない。現地人の意見が必要だ。」
「うむぅ…わかってイマスが…」
「さて本題だ、私は…えっと」
「私達は別の世界からヤッテきました。ナノデ、このセカイのことがわからないのです。」
ラヴがクラリの後方で腕を組み、威圧感をバリバリ出しながら、答えた。
「簡潔にコノ場所の地形を教えナサイ。貴方達がきた場所も、その近くも全てデス。」
「あ、あの」
「答えられないデスか?答えられないならまず脊髄を引っこ抜く必要がアリマスね、そのあとはユビとツメを少しずつハイデ、その次はモウマクを…」
「は、話します!話させてください!!」
騎士の男は勢いよく綺麗に頭を下げ、自身の意思を示した。
心内でため息をこぼしたクラリは魔法「間接指令/サイレント・オーダー」を唱え、機神のCPUに直接話しかける。
「(ラヴ、乱暴はやめてくれ)」
「(ですが、クラリ様。この世界の性質がわかっていない以上舐められては非常に不味いです。こいつらが本当のことを言う確信はありますか?)」
「(わかっている。だが、手綱をつけさせるよりも自らつけてもらった方が楽だろう?)」
「(そうですか?承知いたしました…)」
「ここに紙とペンがある。知っている村や街があれば書いて欲しい。」
「は、はい!承知いたしました!」
数分後、戦士ホラリイは簡易的な地図を書き上げ、解説を初めた。
この世界には七つの大陸があり、クラリたちがいるのはその大陸のうちの一つ。
大陸名パライソ。
付近の大陸の中でもっとも人間が多く住む大陸であり、外敵が少ないため、この名がつけられた。
クラリたちがいる森林がディー森林。
パライソ大陸の南西に位置する自然豊かな森林でとても広く王国にも負けない面積を持っている。
そのまま西に行くと三人がきた村、ゾンギリ村がある。
この大陸には二人の王国があり、一つは、大陸の中央に存在する「神樹」と呼ばれる巨樹を守るように城壁で囲った王国リソールと、その神樹を奪おうとする臨海北東のソーラ王国。
この森から王国へ向かうには、大陸を分断するような門にも見えるほどに聳えた二つの山脈の隙間、通称「スモーク・スペース」を抜ける必要があり、ここには警備がいないため盗賊などがよく出没する。
「あとは道筋に村が点々としている感じですかね…これ以上の情報はありません」
「そうか、感謝する」
「本当〜にそれダケですカ〜?本当はその山脈ナンテないんじゃないですカー?」
「ラヴ、いい加減に…」
クラリがラヴを抑えようとした瞬間、ラヴの声の機械性が消え失せ、淡々と冷たい音を喉から生み出した。
「クラリ様。敵です」
「ここから南西二十メートル先、こちらに時速四十三キロメートルで接近中です。外見上先ほど倒したユニコーンベアなる魔物の親かと思われます」
ラヴの「あと五分程で到着するかと」の一言を聞いた邪神は立ち上がり、六本の腕に様々な武器を装備した。前のとは違い、槍や、剣などが装備されている。
「では、戦闘だ。ラヴ、戦闘準備…」
「できております。行きましょうクラリ様」
「え、あ、はい…」
ラヴの手には真紅の大剣が握られている。
邪神と機神が部屋の出口へと歩きだし、邪神が部屋を出たころ、三人の座っている場所に機神が辿り着いた。
「アァ。貴方達の監視が必要デスね」
「スキル、「機神兵団九九九/ジャッチメンター」…奴らを見張れ。ヘンなことしたらコロシテ焼却ね」
ラヴが鉄の指を重く鳴らすと、部屋に機械の兵が現れた。部屋の角にそれぞれ一体、扉にニ体、冒険者達が座っているソファの左右にそれぞれ一体、合計八体の兵がどこからともなく出現した。
人の形に似ているが、機体は白く、顔はヘルメットのようなもので構成されており、ヘルムの隙間から黄緑の光が漏れている。
機械とは思えない華奢な機体には似合わないサイズの光線銃を装備している。
「ヘンなこと起こすなよ?ニンゲン」
その言葉を最後に部屋には三人の冒険者と八体の機体が残された。