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Depayzman  作者: 床縫
4/7

救済される者

「おい!なんでここにモンスターが出てくるんだよ!」


 四角い顔をした戦士が走りながら叫ぶ。

 男の背中にはこの森に自生している薬草がカゴいっぱいに入っている。


「そんなの、フェネ!あなたが奥の薬草取ってくるの失敗したからでしょ!バカ!アホ!バカフェネ!フェネアホ!!」


「あ!?お前が探知されにくくなる魔法が使えるとかハッタリかますからだろ!俺はっ!悪くっ!ねぇ!」


 魔術師の女は杖を両手で持ちながら天を仰ぎなら息を切らしながら怒る。

 それに対して怒られたフェネという盗賊は時々熊にナイフを投げながら、悪口を返す。

 ナイフは刺さらず、軽い金属音を立てるのみであり、熊には効いている様子はない。


 冒険者チーム「採集屋」は、軽い依頼を受けていた。内容は単純明快、薬草採集である。

 この森、ヌディフォ森林は至って普通の森である。

 魔物の目撃情報も少なく、比較的安全で薬草な採集場所としてはここら辺で最もポピュラーだ。

 「採集屋」は魔物を倒したり、未開拓の遺跡を探索するような冒険者ではなく、薬草採集専門の冒険者だった。

 特に戦闘力が低かったり、冒険者の始まりの一歩としてよくある職業だ。

 この三人組も冒険者に憧れて、薬草採集を生業としているパーティである。

 しかしながら、装備を整える金や訓練はあまり行っていなかった。

 実践だって、スライムを二匹やっつけたのが最高記録だ。

 それがいきなりスライムの三倍強いと言われる「ユニコーンベア」を相手にする方が間違っている。

 熊の相手は胴勲章の冒険者に任せる事案だ。

 勲章すら貰えていないパーティからすれば、生きて帰れるか、チームの団結に関わってくる。それがこの様だ。


「マルネ!」


「はいはい!なにリーダー!?」


「熊撃退用の魔法とかないのか!?視界を惑わす霧とか…」


「「留まる霧/ダーティ・スモーク」のこと!?資金不足で魔導書を買わないって言ったのは誰っ!なんでっ!しょうね!」


「そもそも移動速度上げてるのでっ!精一杯っ!魔力もないから別の魔法なんてっ!使えないっ…わよ!」


 息が切らしながら魔術師、マルネが答える。

魔法を使えるのは彼女だけだ。

 方角も森の奥へと進んでいる。

 これは、いきなり盗賊のフェネが熊を連れて逃げてきたから、釣られて皆同じ方向に逃げ出してしまったのだ。

 リーダーの剣士の男。ホラロイが口を出した。


「俺が身代わりになる!」


「はぁ!?」


「おいおいそりゃないぜリーダー!」


「だが、この中で一番耐久力があるのは俺だ!!俺が時間を稼ぐ!お前たちの今の素早さだったら森を抜けれる!!」


「まってよリーダー!あんた剣の経験ないんでしょ!!」


「あぁ。だが、時間稼ぎくらいならなれる!俺の命よりもまずは冒険者達の連絡網にこの情報を、届けるんだ!!!ここには一般の人もくるのだぞ!!!」


「リーダー…」


 リーダーの男ホラロイが足を止めて、剣を腰から抜いて熊に向ける。

 剣といってもボロボロで刃先が所々かけており、剣としての輝きを失いかけていた。


「リーダー!」


「なにやってるんだ!早くっ…」


 その時だった。

 重厚な音が鳴った。

 扉が開く音だった、それも一般的な家屋にあるような扉ではなく、貴族や王族が聞くであろう優雅とも言える音だ。

 音がなったのは戦士と熊の間。

 そのから少し離れた場所に場違いな豪華絢爛な扉があった。


 扉からはナニカがでてきた。そう、ナニカだ。魔物でも人間でもない。別のナニカ。

 それは黄色いローブを羽織っていた。

 今、染料で染めたかのような綺麗な純色。

 そのローブからは揺らぐように輝く瞳と六本の黒く木の枝のように華奢な腕を広げている。

 腕にはそれぞれカラフルな調度品が握られており、神々しさと禍々しさを感じる。


「さて…実際見た感じ、本当に弱いな。素材ドロップはあるのだろうか」


 ローブの闇から声が聞こえる。その声は冥府へ手招きする死神の様だ。

 または、強欲な貴族だろうか。

 鉄のように重く、渇いたような声だった。

 ナニカが熊の方に体を向ける。

 熊は危機を感じたのか、来た道をその四足で逃げ出した。

 冒険者たちはそれをカカシの様にただ突っ立って見つめることしかできなかった。


「やれやれ…「亡霊の剛腕/ゴースト・キャッチ」」


 ナニカの目の前に紫の魔法陣が出現し、そこから半透明の霧の様なものが出現する。

 それは腕の様な形に変化し、逃げる巨体を握り、離さない。

 熊は霧に噛みつき、引っ掻き、暴れて抜け出そうとするが、不思議とその霧からは抜け出せない。

 霧は熊を握ったまま、フードを被ったナニカの前に移動する。なにかを待っている様だ。


「潰える灯火/ライフ・デス」


 パタリ。と一つの命が潰えた。

霧に握られた熊は、項垂れて動かない。


「亡霊よ、俺の洋館までその熊を連れて行け」


 熊とそれを握る霧は、高速で宙へ舞い、どこかへ行ってしまった。

 残ったのは冒険者三名と純色のローブを羽織った人外。

 静寂。虫も鳥も森も音を一つも鳴らさない。

 この静寂はマズイ。それは冒険者三人が思ってたことだった。みな、逃げ出したいのは山々だったが、恐怖で体が石像のように固まり、動かない。

 元々石像だったのではないかと思うほどの見事な硬直だ。

 ナニカがこっちを見る。

 ローブからは青色の眼光が夜空の星のように輝いている。確実に見られている。

 動かない体のせいか魂が吸い込まれている様に感じる。いや、実際に吸われているのかも知れない。

 危機の最中、戦士ホラロイは、沈黙を破った。


「あの…」


「すいませんでした!あなたの領地だとは気づかなかったのです!私の命は構いませんが何卒!仲間の命だけは!!」


 剣を捨て、頭を地につけ謝罪する。

 勢い余って、石に頭をぶつけてしまったが、そんなことは今は砂粒ほどの出来事だ

 ナニカが喋った気がしたが、気のせいだろう。あの図体からはありえないほど弱々しい声色だった。

 戦士の後ろの二人も続いて頭を地につける。


「あ、ええっと」


「ふん、イイデショウ。貴方達が最初の首を垂れなかったことはチャラにします。…クラリ様、なにか仰いましたか?」


「…いやなんでも」


 突然、人の様なものが増えた。

 貴族が身につける様な赤色のローブに、その隙間から見える黒くテカテカに反射する謎の服。

 顔は何かが張り付いているように無表情で、目も口も動かない。どうやら仮面のようだ。

 それで…とホラロイが尋ねる。


「それを決めるのはクラリ様です。クラリ様」


「え、あ、うん…ええっと…許す!…許すから…情報をくれ!頼む!」


 ナニカは思ったより人間臭かった。


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