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Depayzman  作者: 床縫
3/7

救済する者

 この世界に来てから三日がたった。

 家がないと落ち着かないので、近くの木を伐採し、「不思議な樹海の魔洋館/クリエイト・マジック-ワンダーハウス」を発動し、館を創り出した。館は基本は煉瓦で構成されおり蔦が館を包み込むように生えている。

 館は三階建、地下室二階で、大きさは民家が五棟立てれるほどだろう。邪神になった彼でも快適に過ごせる広さだ。

 機能的ではないが、庭園も追加され、天使が水瓶から水を流す半径2mほどの噴水まで生成されている。三ヶ月ほど放置したように庭の手入れは進んでおらず、噴水にはヒビが入っている。これらは魔法の仕様だ。

 木の伐採は「木こり棒」に力の調整の仕方を教えて(教えたのはラヴだが、これもクラリ様の力と言われた)切ってもらい、簡易的だが、丸太小屋を作った。丸太小屋の用途は今のところない。

 強いていえば、余った丸太をしまっておく程度だろうか。


 時間は朝。邪神クラリは、キングサイズのベットから起き上がる。と、いっても寝ていたわけではない。この体になってから疲労感がまるでなくそれにより毎日目が冴えており、眠る気は一ミリもない。

 しかしながら元々人間として毎日七時間睡眠を心がけていたクラリにとっては違和感でしかなく、この日常を途切れさせるのは少しばかり寂しかった。

 睡眠の代わりにアイテム欄にあった、書物系のアイテムを読んでいた。

 基本消費アイテムか、魔法を扱うための媒介となる魔術書のどちらかだ。

 魔術書は難しい言葉ばかりなのでパスして、消費アイテムばかりを読んでいた。

 今は「騎士団の混濁」を読み終わった。本来は職業を魔術師に素早く変更する使い捨てアイテムだ。なぜ「魔法の初め方」的な名前じゃ無いのか。不思議に思いながら読んでみたら意外と面白かった。魔法が活躍しながら騎士と手を取り合い巨悪に立ち向かう重厚なストーリーだった。続きはいつ出るのかと思った数秒後にはアイテムだったことを思い出し肩を落とす。


 次に読むのは「邪教徒の日記」。

本来なら、クラリの種族「領域外の邪神」の第一段階の種族「邪教徒」になるための条件を自動的に満たしてくれるアイテムだ。

ペラっとコーヒーを溢したかの様な色のページを捲る。


「いあ?いあ?くとぅる〜〜?」


 なんもわからん!とクラリは日記をものの数秒でアイテムボックスに戻した。

 なんだかよくわからない平仮名が並んでいるだけで気味が悪い。

 翻訳魔法とか都合のいい魔法はまず無い。鑑定は別の本で試したが、やはりアイテムの効果の詳細がウィンドウで表示されるだけである。

 この世界で人間がいたらコミュニケーションが取れるのだろうか?この日記のように意味のわからない言葉の迷宮にハマるのはごめんだ。

 ベットから降り、ワサワサと自分の足である数本の手が体を支える。

 閉まっていたカーテンを開ける。ブワサァと音を立ててカーテンが開く。

 日差しが刺さってもダメージは受けなかった。邪神は種族の特徴として光に対して酷い脆弱性があるのだが、日差し程度はその範疇には含まれないらしい。

 今日は流石に館の蔦や庭の手入れをしようとラヴに伝えようと思っていたところだ。

 邪神になったとはいえ元の中身は人間だ。

 そう言う清潔感はまだ残っている。


 今日こそは何かするぞと思っているとき、扉がバァァンという音を立て乱暴に開かれた。

 扉の金具が壊れて、左右と扉のうち右の扉がバタンと音を立て床に伏す。


「クラリ様!おはようございます!」


 無表情な機神。ラヴだ。

 相変わらず自動音声に似た元気な声を発する。顔であるパーツの視線は動かない。

 毎日この感じで毎回魔法で直すのもめんどくさく、二日目からはラヴ自身に直すよう命令している。

 おおよそ完璧に直すため、他にいうこともない。扉が外れたことに気づき、魔法で扉を元の場所まで浮かし、大体のところまできたら、アイテムボックスから取り出したなんの変哲もないプラスドライバーで外れたネジを取り付けた。

 数十秒で仕事が終わり、汗を拭う動作をした瞬間、反対側の扉が申し訳なさそうにギュィィィと軋み、音を立てて倒れた。

 ラヴは一瞬目をやり、すぐにクラリの方へ向き直った。

 いや直せよ。とクラリが言う前にラヴが情熱のこもった声で


「改めまして、おはようございます!今日も晴天ですね!」


 と挨拶した。

 少し圧倒されつつも軽くおはようと返す。

 別にしなくてもいいと言ったのにここのところ毎日挨拶してくる。なぜするのかと聞いてみたら、「クラリ様が大事と仰ってました!」と言うもんで捻るように思い出してみたら、初めて一年目でふざけて発言したことだと知った。

 じゃあ、他の発言も真摯に受け止めている可能性が高く、その場合非常に恥ずかしい想いをすることになるだろう。

 クラリは諦めた。

 クラリが頭をガクッとわざとらしく下すと、ラヴがさっきの情熱溢れる動きから打って変わって、その場に跪き、頭を下げる。


「それはそうとクラリ様、今日は伝えたき儀があります」


 え、なんかしたっけ俺?

 もしかして…NPCとしての立場に疑問を持ったのでは!?なんか俺が主みたいにしている時があるし…ラヴの種族は機神。自分より何十倍も賢いし…疑問を持つのも当然だ…しょうがない。可愛い子には旅をさせよって言うもんな…バレないような監視はする予定だけど!


 と、クラリは数秒考え込んだ。

 覚悟を決めて「申してみよ」と主らしく応える。


「(最後の時くらいこの子の主で親でいなきゃな!)」


「はい。いつも通り周りのマッピングを行っていた所、ここから南西の方角から人間が向かってきていることが判明いたしました。「飛翔する監視液晶体/フライ・カメラ」に偵察に行かせたところ、熊のような魔物に襲われておりそこから逃げるためにここに向かっていると推察されます」


 ラヴはツラツラと話す。

 その声はいつもより機械に近く感じた。

 クラリは内心ホッとする。

 よかった俺と縁を切りたいわけではなかった。反抗期はまだまだ先だな。と。

それよりも気になることがある。


「ラヴよ、魔物の種類は分かっているのか?人間の数は?職業は?レベルはどのくらいある、魔法の装備は装備しているか?」


 太陽の日を受けながら邪神は実況者のときのように早口で聞いてしまった。

 コメントが助けてくれるわけではないのだから、早口である必要はない。

 だか、機神であるラヴには問題はなかった。


「人間の数は三人。職業は外見から「戦士」「魔術師」「盗賊」と推察します。レベルはスライムと同等程度、魔法の武具は…確認できません。魔物の種類は…すみません私には分かりかねます。ですが、特徴として角が生えており、レベルは人間たちと同じ程度かと。」


 機械的に淡々と資料を読むように答える。レベルから察するにここは初心者のエリアという説が濃厚だ。

 だが、なぜ逃げている?

 三対一ならば、戦士に魔術師が支援し、盗賊が魔物のタゲをとって毒矢やらで魔物を弱体化させればいい。

 スライムと同程度のレベルなら、一〜五だ。

 例外として溶岩地帯のスライムはレベルが相当高い。レベルは六十といった所だろうか。

 だが、それよりも角が生えた熊といった特徴のモンスターは見たことも聞いたこともない。熊のモンスターならレベルもおかしい。

 Death Islandに登場する熊のモンスターは最低でも三十三レベルはある。

 見間違えないのだろうか。


「ラヴよ、スライムと同程度といったな。それは草原地帯のスライムか?それともそれ以外か?」


「草原のスライムの基準でございます」


 自分ですら始めた初日、五時間でレベルは九になった。

 弱すぎて逆に奇妙だ。

 始めたばかりにしても救済アイテムでスライム程度は蹂躙できる。熊程度ならガタイがでかい程度でスライムと大差ないだろう。


「ラヴよ、一応お前の見た光景を見たい。「現実投影機/ミラー・マジック」でお前の見ている光景を俺にも見せてくれ」


 かしこまりました。とようやく頭を上げ、魔法を唱える。

「現実投影機/ミラー・マジック」。

 空中に鏡のような画面を出現させる魔法。

 そこには白黒の画面に森を掻き分け、熊から必死に逃げている軽装備の人間三人。

 戦士と盗賊は男性。魔術師は女性で、全体的に皮の装備が目立つ。戦士は背中に大きなカゴを背負っており、その中には草が大量に入っている。見た感じ全員二十〜三十代くらいの容姿だ。戦士の顔はゴツく、四角い顔をしていた。三人の中で一番筋肉があり、ロングソードと大きめのポーチを腰にぶら下げている。

 盗賊は髪の毛を刈り上げており、目つきは悪い。黒いローブを羽織っており全体像は見えない。

 魔術師は長髪の黒髪で、大きな紫の縁がデカい帽子をかぶっている。杖は木製でよく見ると小さなガーネットと思わしき宝石が木々から漏れ出す光線のような光に反射していた。

 この魔法では音は拾えなかったが、人間たちは大きく口を動かしていた。


 それを涎を垂らしながら四足で追いかける角の生えた熊が一匹。

 人間二人分くらい大きな体躯で、角はユニコーンのように大きかった。


 今得られる情報は得た。とクラリは考える。

 あとはこいつらをどうするかだ。

 結論からいうと助けたい。

 この世界のことがわからない以上、現地人に聞くのが一番だ。

 言語が通じない可能性はあるが、それはそれ。こっちには機神がいるのだから、この世界の言語をラーニングさせて、翻訳機として使えばいい。

 確信して、アイテムボックスから様々な装備を取り六本の腕にそれぞれ違う魔法の道具を装備する。

 雷のように黄金の魔法の書、深海のように青い天秤、血のように赤い短剣、金の装飾が施された木の葉のような緑の聖杯、光を吸い込む漆黒のランタン、雪のように白い指揮棒。

 それぞれを握り、魔法を唱える。


「神の通り道/ゴッツ・ゲート」


 目の前に豪華絢爛な扉が現れる。

扉は邪神より高く、三メートルほどだ。

扉には天使の彫刻が微笑み、扉の枠には様々なダイヤモンドカットされた宝石が嵌め込まれている。その数十五個。

ガッコンと重い音と共に扉が開く。


「ラヴよ、私はフル装備でいく」


「では、私も同行します」


「…では行くか」


 邪神と機神は門を潜った。

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