世知辛い
年末、ロングのお客を乗せる。
チップをもらう。
タクシードライバーとしていいことって、そのくらいだろうか?
お礼言われたり、感動的な場面に遭遇したりなんてこともあるけど、実がないことをありがたがることも、すくないだろうし。
もう12月の第3週。
年末で忙しく移動する営業マン。
通院するけが人や免許を返した老人、妊婦さんなど、車を使いづらい人や使えない人などはタクシーを使ってくれる。必要とされる。
でも、値上げの波によって今年は変わったようだ。
基本的に道路がすいている。走りやすくていいのだけど、その分人が出歩いてない証拠でもある。
ターミナル駅前のデパートにつけてるドライバーによるとタクシーの利用があきらかに人が減っているらしい。
駅でも繁華街でも人通りは少ない。
その少ないお客を奪い合うタクシー。都内ならともかく夜だけで3万円超えて稼げるドライバーは少ないだろう。
しかも法人タクシーは月の売り上げによって会社との取り分の歩合が変わってくる。
例えばあるタクシー会社の隔日勤務(隔勤)の場合、月に13日出勤のノルマ(足切り)は40万円、1日当たり33000円は売り上げが無いと達成できない。
達成できても40万の55%が給料になり、そこから4万円前後引かれて手取りで17万円位になる。足切りは最低限で60万近く売り上げてやっと手取りで30万を超える。つまり1日あたり45000円ほど売り上げが必要になる。
なのに、人通りも無く、アプリにも呼ばれず、1時間近くただ待つだけ。
「何かいいことないかぃ?」
ターミナル駅のプールで隣になった知り合いが助手席の窓を開けて声をかけてきた。自分も運転席側の窓をおろして返事をした。
「あったら言わないでしょ。。ナイショでやるよ!」
年齢はかなり上のドライバーは、そりゃそうだと納得して、
「ずいぶん戻りが遅かったべ、いくらだった?」
「都町でしたよ。戻りに昼めし食べてきたんですよ。休憩入れたから遅くなっただけだよ。」
そっかそうかとニヤニヤしながら窓を閉めた。
冬で寒いから、必要なこと話したらおわりだ。
疲れるからそれぐらいでいいんだけど、人の懐ばかり気にしてもしょうがないだろうに。
駅や市役所なんかのタクシープール(つけ場)には縄張りがあり、特定のタクシーしか入ることができない。ただのローカルルールなんだけど、唯一縄張りのないのが市内ではターミナル駅のここだけで、めんどくさいからここに来ている。
たまに別の駅まで乗せて行くこともあるけど、降ろして終わりにしている。よっぽど並んでいてタクシーがいなければ乗せるが業界では『どろぼう』と呼ばれる行動なので駅によっては縄張りにしているタクシーが追いかけてくることもある。昔、平成のころまでは刃傷沙汰になったこともあるし。
何度か駅につけて仕事して、終電のお客さんがちらほらと。
途切れたあたりで前には10台以上のタクシーがいる。
あぶれたなって直感を信じて列を離れる。待てば朝までには乗せられるだろうけど、明日はまた婆さんたちの貸し切りがあるし、乗せられればラッキーってな感じで、銀座通りからみゆき通りへそして国道に抜けようと考えながら左折した。
「理事長すげーな、まだやってんのか。」
個人組合の理事長はかなり高齢なのにまだ実車で信号待ちをしてた。
その後、銀座通りではコンビニの前あたりで人だかりがあった。みゆき通りの交差点では酔った女の子に肩を貸してる男女がいたりしたが止められること無く帰宅できてしまった。
あんなに人がいたのに手が上がらなかった。
ほんとに年末なんだろうか。午前2時には就寝できた。