年末なのに
個人タクシーは個人事業主で営業時間なんてものは無い。法令で週1度は休みとか決まりはあるがお客の都合や予約で時間なんて読めない事が多い。
昨日、後輩を乗せて早めに上がったから、今日は朝が楽だ。
朝から予約なんてあんまり受けないけど、月1回のお勤めだからしょうがない。
ピンポ~ン♫
「おはようございます、車でまってますよ!」
「いま、いくよ〜!」
田舎のばあちゃん家の玄関前の庭にある車の止められそうな場所、そのままのイメージの貞婆さんの家の前で待機する。
朝の8時半、病院に行くための予約だ。
この辺の50代以下の人間は、仕事や学校で、都内または地方に行ったまま帰ってこないでそのまま移住してしまう事が多い。
最寄りの駅まで車で20分くらいだが、バスがないので駅近に家を借りたり買ったり、どんどん過疎化が進んでる。
そうなると高齢者の夫婦や単身世帯がおおくなり、田舎特有の近所のよしみ的に(乗せてって)が発生する。
一応商売なのでただではダメ。なので乗り合いするために婆さんが、集合する。
それが貞婆さん家なのだ。道路の方から1人背の低い白髪の婆さんがあるいてきた。貞婆さんの家の中から3人でてきて、計4人乗せて出発だ。
「いつも悪いねー、。」
「たすかるよ。」
「もうちょっと、詰めて、ドアに尻がはさまっちまうよ。」
乗るだけでも大騒ぎで、動き出せば俳優がどうだとか、年金が少ないだとかずっとしゃべりっぱなしで、疲れる。
病院は県道沿いの総合病院。9時ちょうどくらいに車寄せで降ろして、帰りは12時にこの辺りで停車していることを告げて病院から出る。
今日は牛丼屋で朝定食をたべてから、個人タクシー組合に顔を出して来るつもりだ。
婆さん達は早く終われば待合室か購買前のテーブルに陣取っておしゃべりしてるし、携帯もそれなりに使いこなすから心配ない。
お腹もいっぱいだし、組合で何にもないといいなと思いながら、車を降りた。
事務所はプレハブ2階建てで2階に理事長室や会議室、1階に倉庫と休憩室、事務員のいる受付がある。受付カウンターの後ろには事務員が2人と奥の方の偉そうな椅子に理事長が座って何か書類を読んでいる。
事務員に声をかけて、今月の連絡事項を確認しているときに理事長から声がかかった。
「井ノ原くん、今度の選挙で立会人をたのみたいんだが?」
一応、考えてるふりをして返事をしないでいると、
「本当は理事を頼みたいんだけどねぇ、お母さんのこともあるし、立会人だけでもたのめないかな?」
ちょっと恩着せがましくはあるけど、理事やるくらいなら1日ガマンすればいいので了承しておく。
細かい日時は年明け、内容は2度目だし聞けば分かるだろうと生返事を返して、組合をでた。
個人的には組合なんてなくてもいいなとは思う。
3万近い組合費を払うメリット何か何もない。
負担になるのは、年に数回、許可や申請で
陸運局に行くことと税理士に申告を頼むことくらいだ。
まあ、義理的なものがあって辞めてないけど、潮目は読まないと。
病院に戻って車寄せの近くにあるタクシープールでまたせてもらう。
一応、降りて他のタクシーに挨拶はしておく。
電話すると揃ったらでてくるから、もう少し待ってくれとのこと。
スマホで漫画を読みながら12時を15分ほど過ぎてぞろぞろと老婆の集団がでてきた。そのうちの4人がこちらに向かってきた。
降りてトランクを開けて上げれば1ヶ月分の薬が山になるくらいになった。これで、解散ではなくて途中のスーパーによる。
車のない婆さん達は買い物難民だ。買い物だけで頼まれる時もあるけど、病院のときに調味料だとか肉魚をまとめ買いして帰る。食べる量は少なくても食べないわけにはいかないからね。
車で待機することにして、寝てるからゆっくりでいいと告げ、送り出す。出てきて見つけやすい場所に停めて、漫画の続きを読みながら1時間、トランクに入り切らないものは膝の上に乗せて帰路についた!
3時過ぎに貞婆さんの家についた。そんなに遠くはないがそれぞれの家まで送ると言っても、ここで降りるという。
お茶してから帰るそうだ。あれだけ話してまだ足りないようだ。
料金は1人4000円もらう。6時間の貸切なので高くはないと思う。
料金の他に大福、チョコ等お礼だとお菓子が置かれる。子供の頃から知ってるから逆に断れない。50過ぎたおっさんにチョコってとは思うけど、ありがたくもらっておく。
たいして走ってないけど、疲労を感じたので帰宅して仮眠をとることにした。