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9話 世間は狭いね!

 星野さんのおかげで僕はボッチを脱却することができた。思えば、今までの人生で友達と呼べるような人間は一人たりともいなかった。


 なんでか知らないけど、みんなして僕から離れていくんだよね~……。


 授業中とか、二人一組になるような機会があればちゃんと接してくれるんだけどそれにしても同性の男の子たちからも何やらやたらと避けられていた気がするし。


 別に、いじめられてたとかではないことは確かだ。嫌な視線とか、排除してやろうみたいな意思は感じなかったし。僕はこれを男特有の空間の歪み現象の一種なのかと思っていたけど、よく考えればそれもちょっとおかしい。


 だって、その現象は女性が男性に対して極度に距離を取ろうとするから起こるものであって、男性同士ではそれは起こらないはずなんだ。今日、女装姿をして登校してみて余計にあの時の異質さが浮き彫りになっている。


 嫌われていたっていう可能性も無くはないけど、それにしては僕と話すときはちゃんと話してくれていたし……。


 まあ、昔のことをいくら考えたところで何かが解決するわけではないし、それにこの姿なら空間の歪み現象だって無くなるんだから気にする必要は無いか。


「星野さんはさ、本当に百橋君に興味ないの?」

「う、うん。全く無いわけじゃないんだけどね……」


 そう言う星野さんは、何やら顔を赤らめてもじもじとしだした。


 もしかしてトイレだろうか。女性は男性よりもトイレが近いという話を聞いたことがあるようなないような。

 だとしてもそれは無いか。お手洗いに行きたくなったからってここまで我慢するような事ないだろうし。


「どうしたの?」

「え、えっと……」

「もしかして、本当は百橋君にときめいてるとか……?」


 この様子から察するに、恐らく何かを恥じているのだろう。そうなると、やはり百橋君のことが本当は気になっているのだろう。うんうん。僕には分かるよ、だって彼イケメンだもんね。

 切れ長の瞳に、シュッとした顎。鼻筋はしっかりと通っているし、何より顔のパーツがどれもバランスよく配置されている。


 この世界にしては珍しい、僕の前世基準でイケメンな子だ。


「一目惚れってやつ?いいねぇ、僕はそう言うの分かんないからちょっと憧れるかも~」


 いいよね、一目惚れ。僕は今までの人生で一目惚れなんて経験したこと無かったし、男性なら分かると思うんだけど男子の恋愛感情ってどうしても性欲が付いて回るから、あの子いいなって思った瞬間に、それは果たして恋なのか、それとも欲なのかって。


 そんな考えが脳裏を過るとよく分からなくなってきたりするんだよね。僕の考えすぎなのかもしれないけど。


 そんなことを考えながら、ちょっと星野さんをからかってみる。こういうやり取りって実は憧れていた。恋バナって良いよね。話を聞く側もドキドキするし、話している側も楽しい。


 まあ、稀に嫉妬と虚しさで聞いてる側がとてつもないダメージを受けることがあるんだけど、それはもう悲しきモンスターと化してしまったと諦めるしかないね。


「そ、そうではなくて……」


 僕が余計なことを考えていると、未だ顔を赤らめたままの星野さんが反論してきた。

 

 どうやら、百橋君のことが気になっているようではない様子。では何故ここまで恥じらいを見せているのか。僕の脳内CPUはフル稼働し、一つの結論に至った。


 すなわち、分からないと言うこと。


 まあそんな簡単に人が考えてることなんて分からないよね。そもそも、星野さんと僕は今日会ったばかりの初対面だし尚更ね。


 でも、分からないなりにやりようはある。彼女は何か打ち明けようとしているのだろう。それが彼女にとって人に言うことが恥ずかしいと思うことで、僕に言うべきか言わざるべきかで葛藤していると見た。


 そんな僕ができることと言えば、ゆっくりと話してくれるのを待つことだろう。無理にほれほれと急かすのはご法度だ。

 そう思って、僕はできる限り話しやすい雰囲気を作ろうと努力する。人当たりの良い穏やかな笑みと、この人になら変なことを言っても笑われたりしないだろうと思われるような圧倒的度量。


 ま、そんなことができたら苦労はしないんだけど。


 そんな感じで一人珍妙な努力をしていると、星野さんは意を決したのか僕に何かを打ち明けてくる。

 

「じ、実は私には初恋の男の子がいて……。まだ彼のことが忘れられないの……」


 …………。


 ほう!!


 これはこれは甘酸っぱくも非常に青春らしい恋バナではないですか!

 そうだよ僕はこういうのを求めていたんだよ!情欲と出し抜けに全てを注いだ戦場のような恋愛劇は僕は見飽きた!


 まるで貞操逆転(こんなアホみたいな)世界でやる必要がないような純愛だけど、これはこれで良い味がする。ああ~、素晴らしい……。


「へえ!初恋の人が忘れられないから百橋君にはまだ興味を惹かれないんだ」

「はい……」

「いいじゃんいいじゃん。それで、その初恋の人ってどんな人だったの?あと、いつ恋したの?」

「えっと、中学生の時に図書室でバッタリ会って……」


 それから、僕は星野さんの初恋エピソードをこれでもかと聞いた。


 何でも、星野さんは中学時代は絵にかいたような人見知り文学少女だったみたいで、今ほど外見に気を遣っていたわけでもないし、黒縁の眼鏡もかけていたらしい。


 なるほど、彼女も高校デビュー組の一人だったのか。そう言うことなら合点が行く。彼女は真正面から綺麗だと言われたことがないと言っていたけど、多分この素材を人前に出したのが今日初めてだったのだろう。


 どうやら髪も長くて眼鏡もしていたみたいだから、誰も星野さんの綺麗さに気づかなかったと。


 そして、どうやら彼女の初恋の人は男性にしてはちゃんと目を見て話してくれる紳士さを持ち合わせていて、腰が抜けるような美少年でかつ女性と見間違えるような美しさだったのだとか。


 図書室で偶然居合わせ、これまた偶然同じ本を同時に手に取ろうとして手と手が触れ合ったのだという。


 くぅぅ~~……!


 いいねぇ!こんなにテンプレなラブコメ展開で初恋に落ちるなんて甘酸っぱいねぇ!


 それから、自分も恋という衝動に身を任せて身だしなみや喋り方を勉強したのだと。でも、あまりにのめり込みすぎて結局当の初恋の人とはあれ以降一度も会うことは無かったんだって。


「それはちょっと残念だけど、まあ世間は狭いって言うし同じ中学だったなら地元も同じ可能性は高い。いずれまた会う機会があるかもしれないよ」

「そ、そうかな……」

「そうだよ!それに、そんな甘酸っぱい恋とか実って欲しいじゃん?」


 一度しかあっていない初恋の人っていうのはラブコメだと高校で再開するっていうのがお約束だったりするし、何なら同じ学校に入学しているかもしれない。 

 星野さんは初恋の人が同い年なのかそうじゃないのかも分からないなんて言ってたけど、同じ中学にいたのなら年の差なんて一個くらいしか変わらないだろう。


「今の星野さんなら初恋の人もイチコロだよっ!」


 僕がそう言えば、星野さんはもじもじしながらも笑った。


「いつか会えるといいね!」

「うんっ!」


会えるといいね()


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