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7話 美少女とのコミュニケーションの仕方を教えてくれ

 星野歩夢という名前は、捉えようによっては男とも取れる名前だろう。しかし、この貞操逆転世界において、名前の男らしさや女らしさとはあまり当てにならないものだったりする。


 例えば、僕の名前である時雨。


 これは十分女性として捉えることもできる名前だろう。男性の数が少ない故に、男性らしい名前とは何という基準が前世ほど顕著ではない。逆に、男性っぽい名前を女の子に付けるという文化もあるくらいだ。


 男性の数が少ないから、願掛け的な意味も込めて男の子らしい名前を付ける。


 僕のような前世の価値観を基準としている人間にとっては、珍しいと感じるようなことだけど、この世界だと割と一般的だったりする。

 例えば、僕のクラスにいる大月北斗(おおつきほくと)さんなんかは、僕基準だと男の子かなと感じる名前だ。しかし、彼女はれっきとした女子生徒である。


 まあこんな感じで、この世界だと男女の名前の境界線があやふやだ。


 そう言う意味でも、僕は女装にもってこいの境遇を引き当てていると言える。

 この世界の男性ホルモンは弱いため、髭やすね毛のようなムダ毛も全く生えてこないし僕としてはかなり過ごしやすくていい体だと常々思っている。


 さて、僕が幻の16人目なんていう称号を得ている事への現実逃避はこれくらいで良いだろう。星野さんが言うには、既にクラスで噂になっているくらいだというし、僕の男カミングアウトは慎重に行う必要があるね。


「逆に聞くけど、星野さんは気になる男の子とかいないの?」

「え、私?」

「うん。星野さんって綺麗だし、結構モテるのかなって思ったんだけど……」


 僕がそう言うと、星野さんは虚を突かれたような表情を浮かべた。

 例え男女比が偏っているとはいえ、割合換算すれば1:10なのだ。10人に1人は男がいる世界で、これほど容姿端麗なら今までの人生で男性側から言い寄られたことだってあると思う。


 確かに、この世界の男性は奥手だし、やや女性不信な面が無くはない。でも、生物としてそもそも異性には惚れるようにできているはずなのだ。


 だから、星野さんくらい綺麗な人なら中学時代にでも彼氏の1人や2人いるのではないだろうかと思う。

 そう思って星野さんに問うてみれば、彼女はやや勢いを落として考えている。耳が若干赤くなっているが、どうしたのだろうか。


「えっと……。私はいないかな?」

「いない?珍しいね。百橋君とかイケメンだと思うけど、気にならない?」

「えーっと……。気にならないよ?」


 何を聞いてもどこか上の空というか、ボーッとしているように思う。どうしたのだろうか、さっきまでは溌溂と喋っていたのに、今は若干勢いが落ちている。


 僕はやや疑問に思い、率直に聞いてみることにした。


「……どうしたの?具合でも悪くなった?」

「え?いや、ううん。少しびっくりしただけ」

「びっくり?」

「うん」


 尻すぼみになっていく語尾と、勢いを失っている声音に心配になって顔を覗き込む。熱でもあるのだろうか。入学式初日だけど、体調を崩したのなら保健室に連れて行く必要があるかもしれない。


 僕にできるかな。保健室に連れて行くっていう役目。


 悪い可能性も考慮しつつ、星野さんが言ったびっくりしたという単語に引っかかる。僕が何かしてしまったのだろうか。

 今まで女性と接してきたことがほとんどないからバッドコミュニケーションをしてしまったのかもしれない。そう言う考えが脳裏を過り、僕は内心冷や汗をかいてきた。


 まずい。こんな美少女とのコミュニケーションを失敗させたなんてあったら極刑だぞ。

 コミュ障が何か粗相をしてしまったかもしれない。そう思って、僕は星野さんに再び問う。


「僕、何かしちゃった?」


 そう聞けば、星野さんは一度深呼吸を挿んだ。


「大丈夫。真正面から綺麗なんて言われたの、家族以外だと初めてだったからびっくりしちゃっただけ」


 星野さんのその言葉に、僕はひとまず安心する。


 だがしかし、コミュニケーションにおいて僕が粗相をしたと言うことに関しては一切間違っていないのではないだろうか。相手を動揺させることを言ってしまったという事実は揺るがない。


 もしや僕は彼女とのコミュニケーションに失敗したのではないか。そう思うと心臓の鼓動が早まる。クソッたれ、こんなことならもっと対人関係を積んで来ればよかった!

 どうせ生きてるだけでちやほやされるんだから何もしなくていいだろなんて怠惰な思考に甘えていた昔の自分を殴りたい!


「な、なんかごめんね……」

「ああいや!矢吹さんは悪くないよ!ちょっと私が驚いただけだから」


 なんと言うことだろうか。聖人すぎる。やはり星野さんは女神だった。

 でもそっか、星野さんくらい綺麗な人でもあんまり他人から容姿を褒められるという経験が無いのか。


 多分だけど、ちょっと逸脱しすぎていて褒めるどころではなかったのではないかと予想している。こう

、本当に綺麗なものを見ると呆気にとられるでしょ?


 それか、彼女も僕と同じ高校デビュー組という可能性もある。


「僕は星野さんのこと綺麗だと思うよ?」


 綺麗なものに綺麗と言って何が悪い。僕が男としてこのセリフを言っていたら流石に口説いているのではないかと思われるが、今の僕は女装姿の女子である。女子というのはお互いの容姿は過剰なくらい褒めるし、かわいい物には素直にかわいいという生物なのだ。僕は知っている。


 だから、僕が星野さんのことを綺麗だと言っても何も問題は無い。コミュニケーションにおいて褒めるという行為は最高だからね。


 そんな星野さんは、少し恥じらいながらも褒めらえたことが嬉しいのか素直にお礼を言ってくれる。


「あ、ありがとう……」


 うんうん。これはグッドコミュニケーションなのではないだろうか。これでさっきの粗相はチャラってことにならない?

 なったりしない?いいじゃん今のは僕的にも結構いいコミュだったと思うんだよね。恋愛ゲームだったら好感度上がってたと思うんだけど。


 え?これは現実だから甘えるなって?正論やめてね。


 さて、僕が内心そんなことを思っていると、星野さんが少し意外そうな表情で僕を見ていた。

 一体どうしたのだろうかと思ったが、すぐに星野さんが口を開いた。


「矢吹さんって、ボクッ子だったんだね……」


 物は言いようだね。確かに僕の一人称は“僕”だけど、これはボクッ子と言えるようなものではない。だって、僕は男だし。男性の一人称としてはややマイナー気味だけど、女装姿で使えばボクッ子と言うことになるのか。


「うん。これは昔からずっとこの一人称でさ。物心ついたときから僕って言ってたから直そうと思っても直せなくて」


 嘘はひとつも言っていない。物心ついた時が0歳の時だったとか、直そうと思っても前世からずっとこの一人称だったから俺や私なんて使おうものなら気持ち悪くて直せない。というか、男だから直す必要がない。


「変かな?」

「ううん。全然変じゃないよ。むしろ似合ってる」


 それは、男として喜ぶべきなのか?それとも“僕”という一人称が似合う女として若干男らしさが出ているということでもあるのか……?

 女装姿をしているとこういうところでややこしくなってくる。一体僕は他人から掛けられる言葉をどうやって受け取ればいいのだろうか。これが分からない。


 まあ、こういうことは素直に誉め言葉として受け取っておけば良いだろう。


「似合ってるなら良かったよ。これで違和感があるなんて言われたらどうしようかと思ってたところだし」

「可愛くて良いと思うよ?」


 可愛いかぁ……。まあ、かっこよさを求めるような一人称ではないことは確かだけど、やっぱり誉め言葉として受け取るにはちょっと複雑かなあ……。


 こういう些細なことを気にしないようになれれば、僕も一流の女装マスターになれるのだろうか。


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