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27話 文芸部

 入学した翌日に配られた各種資料の中には、この学校の部活動と同好会、それらの部室がどこにあるかが網羅された資料があった。それを見ながら僕たちは目的である文芸部の教室へと足を運ぶ。


「部室棟の三階の部屋か」

「この上だね」


 僕と星野さんがそう言って、僕たちは階段を上がり三階へと向かった。


 そうしてやってきた部室棟の三階は、物静かな雰囲気だった。文芸部以外にも写真部や漫画研究会なんかの部室もあるようで、教室の扉には『~部』とその部活の名称が記されている。


 僕は文芸部と書いてある教室の扉の目の前に立ち、扉をノックしようと構えた。教室の中からは穏やかな談笑の声が聞こえてきており、中には人が居ることは確実だ。


 なんというか、こういう知らない教室に入るのって緊張するよね。僕は昔からそうだった。

 そんなことを考えながらも、やらなければ何も進まないので僕はさっさと扉を叩いた。


 すると、中から聞こえていた会話の声は一度途切れ、『誰か来たよ』という扉の音を気にする発言が僕の方まで聞こえてくる。


「はーい」


 という気の抜けた返事と共に、教室の扉は開かれた。


 出迎えてくれたのは眼鏡をかけた女子生徒で、第一印象は真面目そうな人って感じだった。彼女は僕たちを一目見て、顔見知りではないことに気づいたのかやや反応する。


「えっと、ウチに何か用ですか?」


 そう言う眼鏡女子先輩(恐らく)に、僕はここに来た目的を素直に話した。


「僕たち部活動の見学をしたいんですけど……。いいですか?」

「えっ。もしかして1年生!?」

「そ、そうですけど……」

「入って入って!部活見学なら大歓迎だよ!」


 やや探るような会話から一変。僕が部活見学をしたいと言うと急に表情を明るくして僕たちを迎えてくれた。ちょっと強引に入れようとしていた節が無くはなかったけれど、それでも歓迎されているのならこちらとしては嬉しい。


 眼鏡の女子生徒に迎えられて入った教室には、彼女を入れて三人の部員がいた。

 ヘッドフォンをして教室の隅にある小さなソファで漫画を読んでいるダウナー系の女子生徒と、垂れ目が特徴的なほんわかした雰囲気の女子生徒だ。


 文芸部は文化部と雖もかなりメジャーな部活動だから、もっと部員がいるのかと思っていたんだけど、どうやらこの三人しかいないようだ。


 そんな疑問が星野さんとめるちーにもあったのか、めるちーがボソッと意外と少ないと呟いていた。

 その発言を聞いた眼鏡の先輩は、苦笑しながらこの部活の部員の少なさについて説明し始める。


「私たち文芸部員はここにいる三人で全員なんだ。卒業した先輩たちの代は沢山いたんだけど、卒業してからはこんな感じ」


 そう説明してくれる先輩に内心で感謝しながらも、それにしたって流石に少なすぎるでしょという疑問が残る。


「だとしても、三人は少ないように思いますけど……」

「あはは……。実はね、卒業した先輩たちの代が人数が多すぎて、この部室を埋め尽くす勢いだったんだよ。文芸部に入ろうかと思っている子って対人関係に積極的になろうと考えてる子はあんまり多くないでしょ?だから、それが圧になっちゃってたんだよねー……」


 どんだけ多かったんだよ卒業した先輩たちの代。

 そんな疑問は僕以外の二人も当然気にしていたようで、星野さんが先輩の発言に対して反応した。


「そ、それは凄いですね……」


 と半ば引き攣った笑みと共に言った。


 それを聞いた眼鏡の先輩は否定せずに笑う。


「そうだよねー。今考えると信じられないというか。でも、一年前までこの学校には漫画研究会とか文化研究会みたいな、そういうサブカル系の同窓会って無かったんだよ。彼女たちの需要も『文芸部』でひとまとめにしていたから、部員が多かったんだよね」


 なるほど。だとしたら納得も行くけど、サブカル系に準ずる部活動や同窓会が一年前までなかったのはちょっと意外だ。同好会や部活動が多く存在するこの学校ならそれくらい既にあるものと思っていたけど。


 まあでも、そう言うのって作ろうと思うとめんどくさい部分はあるし、なんだかんだ今まで何とかなっていたから行動に移さなかっただけか。


「いやー。このままだと文芸部が同好会になるところだったから1年生の部活見学はありがたいよ」


 そう言う先輩に対して、ほんわかした雰囲気の先輩が訂正する。


「もう。アカちゃんったら、文芸部は学校の広報誌の担当もしているから廃部になることはないって知ってるでしょ?」


 ほんわか先輩による訂正で、この部活はどうやら学校行事の一助になっていたようで部員がいる限り廃部になることは無いのだとか。


 勉強になったけれど、ちょっと呼び方がアレなんだけど?


 そんな僕たちの困惑を掴んだのか、眼鏡姿の先輩は僕たちに改めて向かい合って自己紹介をしてくれる。

 

「自己紹介がまだだったね。私は三年の葉宮阿佳(はみやあか)。この部の部長だよ。気軽にアカさんって呼んでね。赤ちゃんでもいいよ?」


 凄く濃い人だった。あだ名にそれを許可するのは何と言うか、尊厳という物がないのだろうか。あと、やっぱり先輩だった。


「ふふっ。気持ちは分かるよ。思想が強そうな名前だよね」

「いやそんなことは思ってませんよ」


 流石にそんなことを考えるような人間ではないよ僕は。そう思って二人を見れば、どうやら彼女たちは先輩が何を言ったのか分かっていないようだった。

 まあ、そりゃそうか。普通の高校生はこういうことあんまり興味もないもんね。


 そうして、部長は隣にいる茶髪のほんわかした先輩ダウナー系先輩の紹介も始める。


「私の隣のこの茶髪が大賀紗耶香(おおがさやか)で、あそこのソファを我が物顔で占領しているのが枢木久瑠華(くるるぎくるか)。くるくるちゃんって呼んであげて」

「大賀紗耶香です。よろしくね~」


 部長の紹介で名前が明かされた二人の先輩を見る。


 大賀先輩は部長と同じく三年生で、枢木先輩は二年生らしい。

 

 大賀先輩はふんわりとした、どこか眠そうな感じの人で、枢木先輩は部長が言っていた通りくるくるとした名前、というか実際くるくるな名前だ。黒髪ウェーブで少々地雷系っぽいようなメイクが目立つ人だが、印象としてはダウナー系で近寄りがたい雰囲気を醸し出している。


 僕が枢木先輩を観察していると、枢木先輩もこちらに気が付いたのか目線を向けて少し億劫そうな表情を拵える。ヘッドホンを外して口を開いた。


「……何?」


 意外と高い声だなと思った。


「い、いえ、なんでもありません」

「そ」


 キリッとした目に睨まれ、僕は思わず何でもないと言ってしまった。


 そっけない態度を取る人だが、なぜかあまり嫌悪感を感じない。なんでだろうかと考えてみるが、心当たりはあまりなく。強いて言うのなら本気で僕を嫌悪しているわけではないからなのだろうか。


「ほらほら、くるくるもちゃんと挨拶して」

「……その呼び方やめてって何度も言ってるよね」


 ヘッドホンを付けなおそうとしていた枢木先輩に対して、部長が声をかけて制止した。呼び方に不満があるようで、枢木先輩は嫌そうな顔をしながらも僕に向かって自己紹介をしてくれる。


 くるくるって呼び方はなんか面白いな。


「枢木久瑠華。新入生でしょ?まあ、よろしく」

「はい。よろしくお願いします!」


 こういうそっけない態度を取る人はこちらから接しなければならない。相手が嫌がっているかどうかをしっかりと見極めるのがコツだ。


 え?何でそんなことが分かってて今まで友達がいなかったのかって?


 理論として知っていることと実践できるかどうかは別でしょ?今は何と言うか自信が付き始めているからできたんだよ。


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